コラム

72歳、リチャード・サンドラーがインスタグラムに上げる未発表作品

2018年12月14日(金)16時00分

地下鉄もストリートと並んで彼のお気に入りの場所だ。本来なら地下鉄もストリートフォトグラフィーの範疇と呼んでいいが、彼自身はストリートと地下鉄の2つを、作品の大きな基本パターンとして分けている。この2つは彼にとって性格がまったく違うものだという。

「地下鉄は、詩でありロマンチックだ。乗客たちはそれぞれ独自の世界、それも大半が静なる世界に入っている......それに対し、ストリートでの撮影は散文と言っていい。複雑でさまざまなことがそこでは起こっている」

ただし、地下鉄での撮影もストリートでの撮影も、その核はサンドラーにとって変わらない。「リアリティを掴み取ること」と彼は言い切る。この、時に詩的で時に複雑な街角の生のヴァイブ(匂いや空気)こそが、彼の作品に魅了させられる理由である。

サンドラーは、写真家としてはスタートが遅い。大学は、ロンドンで鍼灸を専門に学んでいる。また、31歳で本格的に写真を始めるまでは、当時流行し始めていたマクロビオティックのシェフもやっていた。そうした関係からかボストンで居候することになり、その時の恩師の妻からライカをプレゼントされ、またハーバード大学で写真のクラスを聴講したことがきっかけで、運命的な出会いをする。

最も偉大なストリートフォトグラファーの1人と言われるゲイリー・ウィノグランドのワークショップを受講することになったのだ。ウィノグランドの写真感覚を本人から直接学び、また同じくストリートフォトグラフィーの第一人者と言われている、アンリ・カルティエ=ブレッソンの作品を、これまたウィノグランドの講釈つきで学んだのである。

以後、サンドラーは写真にのめり込み、才能が開花していくことになったのだった。ちなみに、それ以前のサンドラーの仕事も彼の写真に少なからず影響を与えている。ストリートフォトグラフィーで決定的瞬間を察知しシャッターを切る瞬間は、鍼師(はりし)が鍼を刺す瞬間に似ているし、暗室での微妙なコントラストとトーンを認識する感覚は、料理の感覚そのものだという。

サンドラーは数年前、ニューヨーク州のアップステートのハドソン川近辺に居を移した。そこで変わらず、毎日のように撮影を、スティールまたはモーションカメラで行なっている。ライカのボディに、21、28、35、50、90ミリというレンズを携帯して。

「その情熱の源は?」と問うと、彼はこう答えた。「インスピレーションが勝手に湧き上がってくる」

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Richard Sandler @ohstop1946

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story