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渋谷で人を切り取っていく、25年近い会社員生活を捨てた男
「渋谷、雨の日のおと」(リンク先で複数枚の写真を見られます) From Tatsuo Suzuki @tatsuo_suzuki_001
<写真は早くから始めないと才能が開花しないというのは本当か? ストリートフォトグラフィーを旨とし、自らが"ハブ"としてきた渋谷を舞台に作品づくりを行う鈴木達朗は、写真と全く関係ない道を歩んできた>
音楽と同じで、写真などのヴィジュアルアートは早い時期から活動を始めたほうがいい、そうでないと才能が開花するのは難しい、と言われる。だが実際には、優れた写真家の中には、しばしば晩年、あるいは人生の一定の期間を経てから写真を本格的に始めた者も多い。その人生も、写真を始めるまでは写真と全く関係ない道を歩んできたような者たちである。
今回紹介する鈴木達朗も、そんな写真家の1人だ。早稲田大学の法学部を卒業した後、25年近くの間、日本のトップクラスのIT企業に勤めていた。だが、ふとカメラを手にし、写真の面白さを知り、その後、国際的な賞を取ったことがきっかけで、安定した高収入の職をあっさりと投げ出した男である。
かつて学生時代にバンド活動で経験した創造的感覚の楽しさを思い出したから、それを追求したくなったから――と彼は言う。インスタグラムをはじめとするSNSの隆盛で、このところ再び凄まじい勢いで盛り上がってきているストリートフォトグラフィーを旨とする写真家である。そうした写真を通して人を切り取りたい、とのことだ。
鈴木が本格的に写真を始めたのは数年前からだ。そのせいか、彼の作品を見た人は、若い写真家が撮ったものと勘違いするかもしれない。作品の舞台の大半は、鈴木が学生時代から生活の中心――あるいは"ハブ"――としてきた、流行の震源地とも言われる渋谷である。その大都会のバイブをスピード感とダイナミズムと共に、自らの焦燥感、あるいは社会の焦燥感と合わせながら切り取っている。
光の捉え方と距離感の掴み方も非常に巧みだ。それは心地良い緊張感を誘発し、写真を見た人は時として、彼が切り取った世界の匂いさえ味わっているような錯覚に陥る。
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