コラム

シャッターを切るまでに「半年~1年」と学者のように語った

2017年01月31日(火)17時49分

 論理を先行させる写真家という意味ではない。優れた物理学者や数学者が、しばしば第六感的なものでひらめいた感覚的な答えを、そのエクスタシーを追求しながら必然的に理論を構築していくように、写真家クルーズも、ただ限りなく満足のいく作品を追い求めて、論理的な実践と労力を惜しまないのである。計算された論理的なプロセスさえも、ある種の感覚的な楽しみとして捉えているのだ。

 実際、彼の作品のヴィジュアル性は、まったくコンセプチャルではない。むしろその逆だ。白黒写真を基調とし、人間ドラマに潜む感情や知覚性を、耽美的かつ徹底的に昇華した産物なのである。同時に、美しいがゆえに、また力強いがゆえに、彼の作品の裏にあるコンセプトも伝わる。隠れた、あるいは顧みられていない非人間的な物語を社会に訴えることができるのである。

――と、ここまで彼を褒めたたえたが、彼自身にはその才能ゆえに1つきつい質問をしている。

 白黒を基調とした力強く耽美的なスタイル、しかもNGO受けする写真ストーリーというのは、ここ数年、才能ある若手の写真家が国際的な地位を獲得するための、ある種の"近道"的なクリシェ(目新しさのない常套手段)となってきている。それは結果的にフォトドキュメンタリー/フォトジャーナリズム業界(Industry)を縮小させていくと思わないか?

 彼の答えは、ノーだった。意味のある力強い作品である限りクリシェではない、と。むしろ最大のクリシェは、フォトドキュメンタリー/フォトジャーナリズムにIndustry という言葉を使い続けていることだ、と。

【参考記事】「iPhoneで3年だけ」の写真家が、写真をアートに昇華させる

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Mario Cruz @_mariocruzphoto

インスピレーションの連鎖反応として実験的に撮り続けているディプティック(2連の衝立)様式の作品

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルビオ米国務長官、10─12日にサウジ訪問 ウクラ

ビジネス

米ナスダック、24時間取引導入へ 米株需要高まり受

ワールド

イラン最高指導者、米との交渉拒否 圧力に反発

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story