コラム

ニューヨーク市長をめぐる裏切りのドラマがリアルタイムで進行中

2025年02月19日(水)15時00分

その人数は、ニューヨーク市だけで何とのべ21万人に及んだのでした。アダムス氏は、民主党の市長として彼らの人権を守ろうとしました。ホームレスの施設に収容したり、テント村を作ったり、更には廃ホテルを全館リフォームして入所させたり、大変な負担に耐えて頑張ったのです。

ところが、バイデン政権の対応は冷淡でした。例えば、難民審査は連邦(国)の権限ですが、そこにマンパワーを投入しなかったので、スピードアップどころか当初は数カ月だった審査期間が、6カ月以上の待ち時間となったのでした。そうなると、移民の滞在費が予算を圧迫します。アダムス市長はバイデン政権に緊急の補助金を申請しましたが、対応は渋いままでした。


大統領選で保守派に利用される?

それならば、待っている間に仮の労働許可を出して、移民が自分で生活費を稼ぐようにして欲しいという要望をしましたが、バイデン氏はこれもすぐには認めませんでした。どういうことかというと、

「大統領選が近いので、連邦政府が難民申請者に便宜を図っているということで、トランプのプロパガンダに利用される」
「まして、難民申請中の人物に労働許可を出したりしたら、保守派の攻撃に口実を与えるようなものだ」

という論理がバイデン氏の背後にはあったのだと推察されます。それどころか、バイデン政権の周囲には

「再三にわたって要望を繰り返すアダムス市長は、移民問題をうまく処理できないので、民主党全体のイメージを悪くしている」

という批判がくすぶるようにもなっていました。

そんな中で、バイデン政権の検察はアダムス氏の捜査を開始しました。材料としては、領事館転居時の許認可における便宜を図ることと引き換えにトルコ政府から接待を受けたという容疑です。

接待の内容が本当はどこまで悪質なものだったのかは分かりません。ですが、おそらくアダムス氏の心中は怒りで沸騰していたに違いありません。民主党は、共和党の移民排斥に反対して、移民の人権を守るのが政策のはず、だからこそ自分は損な役割を引き受けた、なのにバイデンは自分を厄介者扱いして、支援を渋るどころか報復をしてきた......おそらくはそう思っているに違いありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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