コラム

2024年、円安の出口と日本経済のバランスをどう取るか?

2023年12月27日(水)10時45分

現在、円安の痛みは輸入品、とりわけエネルギー、資源、食糧、資材の高騰という形で、国民の生活水準への脅威となっています。この点についても、是正が必要であり、ある適切な時点で、円高に振ることでは必要です。ただし、その場合にも行き過ぎへの警戒は必要です。各国の債務の動向などと比較しながら、円が過大評価されて、投機筋のマネーが入って円高が暴走しないようにする必要があります。


長期的には円安の暴走も怖いが、一旦円高に振ると、円高が暴走する危険もあるわけで、そう考えると、植田総裁の日銀は、非常に難しい舵取りを続けていることが分かります。つまり、植田日銀はアベノミクスという現状に甘えて、出口戦略から逃げているのではないと思います。おそらく年明け以降は、さらに高度なバランス感覚で、管理された円高という「緩和の出口」が模索されるのだと思います。

どう「ソフトランディング」させるか?

その場合ですが、円高を当てにして日本企業や、日本の不動産などに投資している外国資本は利益を確保しようとするでしょう。ですが、そこで「利益確定の売り」が暴走するのではなく、その後も継続して日本に投資してくれるような努力が必要です。生産性を回復し、多くのイノベーションを日本発で実現して、海外からの投資を引き続き「つなぎ止める」ことが必要です。

別の観点としては、円高に振れた場合に、日本の本社事務部門というのは、多国籍企業がドルベースで決算をする場合には「コスト高」に見えてきます。放っておけば、これをリストラの口実にして、事務部門までもが国外に空洞化する可能性があり、そうなると国内経済は暗くなってしまいます。円高に振れた場合には、本当の意味での生産性を回復するように国内での「事務仕事の大改革」を断行して、事務部門の国外流出を食い止めることも必要になってきます。

長期化した円安トレンドのために、「甘やかされてきた」多国籍企業ですが、この次の円高のタイミングを捉え、内部の大改革を行って空洞化を阻止することができれば、日本の生産性低下の流れにはブレーキをかけることもできるでしょう。そうしたプロセスも日本経済に取っては向かい合うべき道であると思います。いずれにしても、円安政策の出口をどうソフトランディングさせるかというのは、2024年の日本経済にとって、大きな課題だと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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