コラム

日本の外国人入国停止と、コロナ対応の「次の手」

2021年12月01日(水)16時00分

まず「国境をどうやって再開するのか?」ですが、仮にオミクロン株が弱毒性であって、なおかつデルタと入れ替わる動きが顕著であれば、世界的にリスクが激減することから、規制は解除できると思います。

問題は、それが判明するまでの期間、そして反対にオミクロン株への警戒が明らかに必要となった場合です。その場合でも、いつまでも鎖国状態を継続するわけにいきませんから、入国者への対策を強制隔離に切り替えるなどしながら、経済活動上必要な人の行き来や、留学生の入国を進める体制への切り替えが必要になると考えられます。

判断が必要なのは「ブースター(3回目接種)」のタイミングです。国内外におけるデルタ株の脅威が続くとか、オミクロン株の脅威も即時対応の必要があり、やがて医療従事者や高齢者の抗体値が下がるということであれば、「2回目から8カ月」ではなく、「6カ月」への前倒しも必要となってくるでしょう。

その一方で、仮に「検査を受けない隠れ陽性」が、無視できる水準という前提で考えると、現在の日本社会は「ゼロコロナ」状態、つまり市中にウィルスがない状態であると考えられます。ウイルスというものは「何もないところから湧いてくる」可能性は低いわけですから、市中にウイルスがなく、また国境も厳しく管理されているということであれば、このまま「ほぼゼロ」が維持できるかもしれません。

そうであるなら、慌ててブースターを打つのではなく、「8カ月(あるいはそれ以上)」を基本とするという考え方も成立すると思います。その場合のメリットとしては、

・ウイルスがないのに、抗体値を高めた集団を作るムダが回避できる
・仮にオミクロンなど新変異株対応の調整をしたワクチンが利用可となるのなら、それを待って投入できる

といった点が挙げられます。

経済的な影響も大きい

ただ、あまり「先送り」を続けると社会における「ブースターが必要だという切迫感」が薄くなって、接種率の確保に失敗する危険もあります。判断としては難しいところですが、ここは是非「決まっているから原則8カ月」だなどというお役所的な説明ではなく、責任ある政府の代表が「なぜ6カ月ではなく8カ月なのか」について、しっかりとその判断を説明するべきだと思います。

とりあえずは、オミクロン株の動向を見ながら国境の開け閉めを行い、同時にブースター接種の時期を前後に調整することになると思いますが、その先については国民的な議論が必要になります。

例えば旅行業や運輸業に関しては、海外需要がゼロという状態が丸2年を超えるようですと、体力的に維持が難しくなるケースは増えると思います。国境を開けるのか、それとも公的資金救済をするのかといった難しい判断は避けられません。大学なども同様で、留学生ゼロが続くようでは経営が揺らぐ教育機関が出てくると思います。「ゼロコロナ」は立派ですが、それを維持するために取り返しのつかない多くを失うこともまたできないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story