コラム

コロナ危機、人種分断、経済再生──次々に噴き出す米政治の課題

2020年06月04日(木)15時40分

もちろん、デモ隊の中には「4警官起訴で幕引きはさせない」という雰囲気もありますが、仮に「問題の根源は分断を煽る大統領にある」ということであれば、それは11月の選挙で政権交代を実現するしかないわけで、その意味でも事態はバイデン候補に有利に推移しているのかもしれません。

一方で、トランプ大統領はツイッター社に加えて、SNSのスナップチャット社からも「暴力や人種差別を教唆するメッセージはマスのプラットフォームには載せない」という通告を受けて、「放言ツール」がまた一つ消えたことになります。また、この間ずっと表明してきた「正規軍の治安出動」に関しては、マティス元国防長官から厳しく批判され、現職のエスパー国防長官からも「他に手段のない切迫した局面以外は考慮できない」とされています。

そんなわけで、この一件に関してトランプ大統領は、3日の時点ではほぼ沈黙を余儀なくされた格好です。一方で、コロナ危機に関しては、「第二波があってもロックダウンはしない」「マスクは絶対にしない」ということで、フロリダにおけるスペースX有人飛行の打ち上げ見学の際も、ワシントンDCの教会訪問の際も、「お付きの人々」を含めて一切マスクは「なし」でした。

景気反転に失敗したらどうなる?

ということで、今後の米政治の柱はどこに移っていくかというと、それはおそらく経済ということになると思います。

ロックダウン反対、マスク反対ということで、中西部の保守派に迎合するにしても、全国の消費者が「まだ不安が残っている」というのであれば、経済の再オープンは失敗します。だからこそのマスクであり、だからこそのPCR+抗原(抗体)検査なのですが、とにかく大統領は「ブラジル方式」に固執していますから、下手をするとそれで経済の再起動に失敗する可能性もあります。

また、直近の6月5日(金)には5月の失業率が発表になります。4月が14.7%でしたから、アナリスト達からは21%から23%という予想も出ていますが、仮に実際にそうした数字が出た場合に、マーケットが耐えられるかどうかが気になります。

さらに、国際航空路の再オープンがどこまで可能なのか、自動車産業の生産再開はするにしても需要減がどんなトレンドで推移するかなど、これからの米経済は極めて不透明です。トランプ大統領とその周辺は、「景気刺激策はあと1回で打ち止め」としていますが、それで景気反転に失敗した場合にはどうするのかが問われます。

秋の大統領選本選に向けては、コロナ危機、人種分断危機に加えて、経済をどう立て直すかが今後の大きな争点になっていくことになりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ・ミコライウ州のエネインフラ攻撃

ワールド

リトアニアで貨物機墜落、搭乗員1人が死亡 空港付近

ワールド

韓国とマレーシア、重要鉱物と防衛で協力強化へ FT

ワールド

韓国サムスンのトップに禁固5年求刑、子会社合併巡る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story