コラム

新型コロナ拡大に備える、アメリカ流「悲観論」の読み方

2020年03月18日(水)17時40分

新型コロナの感染拡大の影響で人影もまばらなニューヨークのタイムズスクエア Carlo Allegri-REUTERS

<危機に際して徹底した「悲観論」を掲げておいて、予想よりもプラスに推移しているという認識に持っていくのは、アメリカでは良くある手法>

アメリカにおける新型コロナウィルス感染拡大の状況としては、当初はワシントン州とニューヨーク市北部が中心だったのが、市中感染が各州に拡大しているのが現状です。そのアメリカの対応ですが、本稿の時点では、「国家非常事態」が宣言された上で、

▼10人以上の集合は自粛(学校と職場は除く)
▼バー、レストランは休業を要請

という全国レベルの「準ロックダウン(閉鎖)」になっています。感染ピークの中国や、現在のイタリアやフランスよりは緩い対応ですが、日本の対応よりは相当に厳しいものと言えます。ニューヨーク市内など感染が拡大しているところは別としても、この時点では全米一斉にここまで厳しい対応をするのは、アメリカ社会の特性を反映していると考えられます。

その特性とは、1つには「一線を越えると判断が速い」ということです。判断を渋るのは弱いリーダーシップというイメージがあって、「今なのか? 先送りなのか?」という選択肢に直面すると「今」を選択する傾向があると言えます。とにかく「様子を見るのではなく、動いて」しまい、その上で問題があれば修正するという方法論です。

もう1つアメリカ社会に特徴的なのは、独特の「悲観論」です。昔からアメリカ人は陽気で楽観的というイメージがありますが、危機に陥った場合や、状況が後ろ向きになった場合などに、かなり徹底した「悲観論」を持ち出すことがあります。今回もその例だと言えます。

例えば、3月16日(月)にトランプ大統領が行った会見で飛び出した「収束は7月から8月になる可能性」という発言です。15日で好転するとか、長くても数カ月で何とかなるという期待を多くの人が抱いている中で、7月から8月というのは、よく言えば「楽観論を戒めて最悪の事態に備える」態度とも言えます。

「失業率20%もあり得る」

ですが、悪く言えば「責任回避のためにとりあえず最悪の事態を口にしている」だけのようにも取れます。実際にこのコメントは、あまりにネガティブだったために取引時間内のニューヨーク株式市場では記録的な暴落を記録することとなりました。

もう1つは、その翌日、3月17日にムニューシン財務長官が口にした「コロナウィルスの影響は、リーマンショックを上回る可能性があり、最悪の場合は失業率が20%を越えることもあり得る」という発言です。

現在は史上最低と言っていい3.6%というアメリカの失業率ですが、今週から一気に「自粛」の影響が噴出しており、一気に悪化するのは免れない状況です。ですが、それでも「20%」というのは衝撃的です。しかも財務長官の発言ですから、その重みは無視できません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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