コラム

驚きの大統領就任演説、インフレ退治を約束したトランプ

2025年01月22日(水)12時00分

トランプは就任演説で「インフレ退治」を約束した Julia Demaree Nikhinson/Pool/REUTERS

<トランプの掲げる政策は物価を上げる方向に作用するものばかりだが>

第2次トランプ政権の就任日は、怒涛のような数のニュースが押し寄せた一日でした。就任式に加えて、数多くの大統領令が発令されて、かねて予告されていたように「トランプ流」政治が一気にスタートしたからです。その多くはバイデン時代のアメリカを一変させるような「過激」な内容でした。その一方で、この日の言動の中で一番驚かされたのは、就任演説の中でハッキリと「インフレ退治」を約束したことです。

もちろん、今回の大統領選挙でトランプ氏を勝たせた一番の要因は経済であり、なかでも物価高への国民の大きな不満が原動力となったことは明白です。ですから、その期待に応える姿勢を見せることには、何の不自然もありません。むしろ新大統領として有権者に対するメッセージとしては当然過ぎるとも言えます。


そうではあるのですが、ここまで明白に「インフレ退治」を約束したというのはやはり驚きです。というのは、トランプ氏の掲げる政策は、その正反対、つまり物価を下げるのではなく上げる方向に作用するものばかりだからです。

まず不法移民の追放については、仮に大規模に実施されれば、最低賃金スレスレの人件費で彼らに依存している業界は大打撃になります。大規模農業の現場、食品加工の現場、庭師など住環境維持の現場、外食産業の厨房とホールにおける補助要員などがそうです。彼らがゴッソリ抜ければ、その後を埋める労働力を確保するコストは激増して、それが物価に転嫁されることになります。

世論の感情論に迎合していけば......

各国からの輸入品に高関税をかけるという政策も同様です。トランプ流の「保護主義」というのは、まず製造業の業界があり、雇用があり、これが輸入品に押されているので陳情を受けて自国産業の救済に向かうという性質のものではありません。

トランプ氏の支持母体である「庶民」というのは、例えば希望した職種のキャリアが築けないのでサービス産業の仕事を「つなぎ」にしている人、あるいは昔は製造業の現場にいて既に引退しているが、過去の製造業の栄光が失われたのを悲しんでいる人、などが中心です。

これに加えてグローバルな貿易や経営に携わって高給を得ている人への憎悪と、世界の工場の地位が奪われたことへの漠然とした悔しさなどが加わって、繁栄している外国の製造業へ憎悪を向けているのです。つまり、内容の伴わない感情論です。そうした負の感情に迎合すれば集票は可能ですが、その感情論のままに多額の輸入関税をかけるのでは、物価高騰を招くだけです。

一番の問題は、景気は十分に加熱しており、雇用は十分にあるということです。そして、トランプ氏自身は更に景気を拡大したいと言っていますし、株式市場は更に「トランプ景気、トランプ株高」を期待しています。そうなれば必ず物価は高騰します。つまり、トランプ経済が当面は成功し、トランプ流の政策が動き出せば、物価は更に高騰するのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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