コラム

医学部入試における女性差別、改革は待ったなしの課題

2018年08月03日(金)16時45分

背景にある女性医師の就労環境そのものの改革が必要 nimon_t/iStcok. 

<女子受験者への差別をすぐにやめさせるのは当然だが、さらに女性医師がキャリアを通じて活躍できる制度改革が必要>

アメリカの場合、学部段階で医学部を選択することは(一部の例外を除いて)なく、4年制の大学を卒業してから医科大学院(メディカル・スクール)を目指すことになります。ですから、(筆者が)高校生への進路指導を行う際に、医学部入試というものに直面したことはありませんでした。

ただ、学部段階での「プリメド」つまり医科大学院への進学を前提とした「医学予科」を主専攻にする、そう宣言して大学への願書を出すケースはあります。その場合には、「難易度の高い数学での好成績」「生物・化学・物理3科目における好成績」に加えて、できれば「病院や救急隊」でのボランティアをして、医療の現場を経験することからの気付きや、経験から獲得したモチベーションの質をエッセイや面接で表現できるようにというアドバイスをすることにしています。

ちなみにアメリカの医科大学院の男女比率について言えば、AAMC (Association of American Medical Colleges) が公表しているデータによれば、2017年秋の医科大学院入学者のうち、女性は 2万1388人で全体の50.7%であり若干ですが女性の方が多いという状況になっています。

そのアメリカの医科大学院は大変に狭き門で、同時に学費も相当な金額に上ります。奨学金制度はあるにしても、医科大学院の場合、アメリカ人以外には限定的です。そこで、日本人学生の場合、アメリカで高校を卒業して日本の医学部を目指すというケースもないわけではありません。

そうした「帰国子女枠での医学部受験」について、かなり詳しく調べたことがあるのですが、多くの大学関係者や予備校の専門家などからは次のようなことを言われたのでした。「そもそも、日本の医療現場には国際人を求める強い動機はない」「2000年代前半に帰国枠を拡大して入学させたことがあるが、医局制度の上下関係が理解できずにほとんどが辞めてしまった」ということから、「医学部の帰国枠入試」における定員「若干名」というのは「基本的にゼロもしくは1」という理解をするようにというのです。

これは2000年代後半の話ですが、この「医学部の帰国枠は有名無実」ということに加えて、当時すでに「女性は不利」ということは言われていました。今問題になっているのと同じで、せっかく高い経費をかけて養成しても結婚や出産で辞めてしまうので、ムダになるというようなことが理由だということも、かなり大っぴらに言われて戸惑ったことを覚えています。

その「女性は不利」という意味ですが、私は帰国枠など面接が絡む評価で多少バイアスがかかるのだろうとか、「不利」という言い方は、臨床や解剖を含む6年間の厳しいカリキュラムに耐えるのは女性には難しいという偏見から来ているのだろう、そんな風に受け止めていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ

ワールド

焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う

ワールド

米とウクライナ、鉱物資源アクセス巡り協議 打開困難

ビジネス

米国株式市場=反発、ダウ619ドル高 波乱続くとの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 6
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク…
  • 7
    ノーベル経済学者すら「愚挙」と断じるトランプ関税.…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    娘の「眼球が踊ってる」と撮影、目の「異変」は癌が…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story