コラム

朝鮮半島問題の不等式に解はあるか?

2018年05月08日(火)18時30分

韓国側の体制も考えなくてはなりません。現在は左派政権ですから、北朝鮮の平和攻勢を受け止めていますが、その反面、右派の元大統領2人を獄につないで右派政党の影響力を止めたり、かなり無理なことをしています。左派政権が安定していないと、北朝鮮との和平は進まないのは分かりますが、あまり強引なことをすると政治的な反動の危険も出てきます。さじ加減というのが必要でしょう。

核廃絶に関して、実験場の放棄というのは「すでに崩壊が進んでいる」ようですから即座に可能としても、弾頭の廃棄やウラン濃縮設備の廃棄、あるいはミサイルの廃棄というのは、即時とはいかないようです。ここをあまり強く押して「すぐに」というプレッシャーをかけては和平の全体が崩れる危険がありますし、かと言って「北朝鮮が引き延ばしにかかった」場合に、ズルズルと引きずられてもいけません。

一方で、朝鮮戦争が「終結」した場合に、在韓米軍に変化が生じる可能性も取り沙汰されています。この問題も、確かに「和平が成立」したのであれば、削減が筋でしょうが、東アジアのパワーバランスが大きく崩れて、全員が不幸になるようでは困るわけです。ここにも「B<X<C」という不等式があります。

こうした状況下では、過去の様々な外交交渉ではなんだかんだ言って、「アメリカが現実的な落とし所を調整」することが多かったわけです。キッシンジャー外交、ブレジンスキー外交、ベイカー外交などはそうした傾向を強く持っていました。隠密的な動きの多かった、ライス外交、ヒラリー外交なども基本的には同じです。

ですが、現在のトランプ政権は「アメリカ・ファースト」という「自国中心主義」「非介入主義」を掲げ、今回の北朝鮮危機への対処も「アメリカに核ミサイルが届くことがないようにすれば成功」という極めて視野の狭い考え方から向き合っています。ですから、残りの関係諸国は「全体が許容できる落とし所」を自分たちで考え、調整していかねばならないのです。そこに今回の問題の一番の難しさがあると思います。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story