コラム

訪日外国人4000万人へのハードルとは

2018年02月08日(木)17時00分

東京の地下鉄網は外国人観光客にはまるで迷路 prachanart-iStock.

<英語の案内、外国人向けの食事、交通機関の煩雑さ......外国人旅行客4000万人達成の日本政府の目標には越えなければならないハードルがいくつもある>

最新の統計によれば、2017年の訪日外国人の人数は2869万人に達しました。ここ数年、毎年400万人のペースで伸びており、このままで行けば東京オリンピックの開催される2020年には4000万人の大台に乗せるという政府の計画も、現実味を帯びてきました。

ですが、ここから先はそう簡単には行かないと思います。今年18年はおそらく「年間3000万」という状況になるでしょうが、ここから先も順調に伸ばして行くには、様々な壁を乗り越えていかなければならないと思います。現状の勢いを見て楽観しているだけではダメでしょう。

1つは、社会全体でもう一段、英語が通用するように工夫をすることです。もちろん、一気に幅広くというのは難しいですが、少なくとも国際線の機内アナウンスであるとか、空港や駅などの案内放送などは、「分かりやすく、しっかり伝わる」英語で行うようにするべきです。

特に改善を要望したいのは、航空会社の対応です。機内にしても、空港地上職員にしても英語のアナウンスはひどすぎると思います。「英語で誠実に語る気持ちが入っていない」という悪印象になるだけでなく、事故やテロなどの非常事態を想定した場合のコミュニケーション不全をおそれて、英語圏の乗客からエアラインとして忌避される危険もあります。

2つ目は、食の問題です。日本食はクールジャパンだから、訪日外国人4000万という時代になっても「このまま」で良いというのは思い上がりだと思います。私の周囲でも、日本の文化や自然に憧れて旅行に行ったものの、食べられるものがなくて困ったという話はよく聞きます。

具体的には、「ハラル」「コーシャ」「ベジタリアン」「スパイシー」といった食生活の多様性に対応した表示を増やすこと、「日本旅館の懐石料理一辺倒の押し付け」をやめることなどが考えられます。反対にこれだけ訪日外国人というのが大きなマーケットになっているのですから、積極的に外国人に分かりやすいメニューを展開するような店がドンドン出てきても良い時期だと思います。

3つ目は、交通機関の問題です。特に東京を中心とした首都圏の鉄道網は、外国人には大変にハードルが高いままです。駅に番号を振るというような工夫は当たり前ですが、それ以前に乗り換え案内のアナウンスや路線図表示がいつまでたっても改善しません。

各駅ごとにバカ正直に「路線名を羅列して乗り換え案内」のアナウンスを日本語と英語でやるのではなく、もっとメリハリをつけて「〇〇空港にはこの駅で乗り換え」だとか、「快速は対面乗り換え」だとか初心者に分かるような、そして安心させるような重要情報をアナウンスして欲しいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story