コラム

超音速旅客機ベンチャー、成功の可能性は?

2017年12月07日(木)16時30分

巡航速度はマッハ2.2で連続飛行距離は約8300キロ Boom Supersonic/REUTERS

<「コンコルド」からさらに進化した超音速旅客機は、日米間を5時間半で結ぶダイヤの利便性には期待できるが、フライト間の機体整備がポイントに>

ブーム・テクノロジー社は、2020年代半ばの実用化を目指して超音速機を開発中のベンチャー企業で、アメリカのコロラド州に本拠があります。JAL(日本航空)が12月5日に、このブーム社と資本・業務提携したと発表しました。JALは技術面での交流を行う他に1000万ドル(約11億円)を出資、超音速機20機分の優先発注権を獲得しています。

さて、超音速旅客機といえば20世紀後半に実用化された英仏共同開発による「コンコルド」が思い起こされます。1970年前後に、ソ連のTU144、ボーイングの2707と「三つどもえ」の開発競争をしたなかで、TUは絶望的な低燃費のために、またボーイングは環境問題から脱落したために、唯一実用化されたのがコンコルドでした。

ですが、実用化されたとはいえアメリカでは大陸上空の超音速飛行を禁止され、航続距離が長くないため、生産されたのは20機だけでした。大西洋線(主としてロンドン〔ヒースロー〕=ニューヨーク〔JFK〕、パリ〔ドゴール〕=ニューヨーク〔JFK〕など)で細々と定期便が就航しただけで、結局は21世紀初頭に事故によって信頼を失い、交換部品調達も難しくなって全機退役となっています。

では今回の「ブーム」はどうなのかというと、さすがにコンコルドと比較すると45年以上の時間による技術の進歩があり、性能は向上しているようです。巡航速度はマッハ2.2(時速2335キロ)、連続飛行距離4500海里(約8300キロ)ということで、羽田からサンフランシスコまでノンストップで届くようです。その場合の飛行時間は5時間半と言われています。

この「ブーム」ですがビジネスとしてはどうなのでしょうか? ちなみに、コストに関してブーム社は「現在のビジネスクラス運賃の4割から5割増程度の運賃で運航できる」としています。

問題は運航ダイヤです。太平洋線の場合は、時差を考慮しなくてはならず早ければ良いというわけではありません。果たして、「羽田=サンフランシスコが5時間半」というのは効果的かということです。

まず、東行きのダイヤを考えてみましょう。

最初に夜出発の場合を考えてみましょう。羽田を20時の出発、つまり一日の仕事を終えた後に空港に向かった場合ですが、到着は日本時間の25時半(翌日午前1時半)ということは17時間マイナスして、サンフランシスコ時間では朝の8時半になります。これは、まさに弾丸出張向け、しかも金曜の夜に日本を出て金曜の朝に着いてしまうのですから、時間の有効活用になります。昼夜のリズムとしては、アメリカから大西洋線の夜行で西欧に行く感じですが、ミソは時差の関係で「同じ日の朝に戻ってしまう」ということです。

一方で、羽田を朝出発という場合はこれとは異なります。朝の9時発ということで考えてみると、所要5時間半ということは、日本時間の14時半にサンフランシスコ着となります。これは、日付変更線を通過する関係で「サンフランシスコ時間の前日21時半」になります。急いで移動しても、夜になってしまいビジネス的にはムダという考え方もできますが、金曜の朝に日本を出て、木曜の晩にサンフランシスコに着いてゆっくり眠れるのであれば、悪くないという考え方もできます。超音速移動によって、重要な商談を控えて休養を取る「ゆとり」が可能になるというわけです。

では、西行きはどうでしょう?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story