コラム

オバマケア代替案は、このままでは成立しない

2017年03月09日(木)17時00分

トランプ政権主導で提案されたオバマケア代替案には、共和党の一部からも反対意見が出ている Carlos Barria-REUTERS

<米議会に提出されたオバマケアの代替案は、現行制度のマイナー・チェンジに過ぎない。民主党だけでなく共和党の一部が反対するこの代替案が、現状の方向性のまま可決される可能性は極めて低い>

今週7日、トランプ大統領は、2011年に制定された医療保険改革、通称「オバマケア」を廃止するとともに、制度の代替案を発表しました。形式的には下院の共和党が提案したことになっていますが、これは明らかにホワイトハウスが描いた案です。政権発足以来、初めての「本格的な法案」の提出で、さっそく議会との駆け引きが始まっています。

オバマ大統領が実現した医療保険改革は、従来は極めて高額だった個人加入の医療保険に公費補助を行うことで、各種調査によれば全米で2000万人近い人が「無保険状態から脱した」とされています。では今回の案は、それを根本から作り直すものかというと、全くそうではありません。ハッキリ言って、今回の提案はオバマ政権が創設した現行の制度の「マイナー・チェンジ」に過ぎないのです。

【参考記事】オバマケア廃止・代替案のあからさまな低所得層差別

具体的な変更点については、詳細は未発表(まだ詰めの作業中)ですが、現時点では次のような提案がされています。(主要な点のみ)

(1)政府権限の縮小、減税にあたる措置
オバマケアでは保険に入らないとペナルティがあったが、これを廃止して保険に「入らない自由」を認める。また、保険料を払った分、受けられる税額控除を拡大する。

(2)オバマケアを基本的に継承する部分
オバマケアの最大のメリットである、個人加入の医療保険について、現実的に加入できる金額まで引き下げる措置は基本的に継続。疾病に罹患した人でも新規に保険に加入できる(それ以前はほぼ不可能)措置も継続。またオバマケアでは、26歳以下の子供は親の扶養家族として保険に入れるようになったが、この措置も継続。

(3)共和党的な福祉の簡素化
60歳以上の高齢者が個人で保険加入する場合の保険料は、高額になる(65歳以上は国営の高齢者医療保険「メディケア」の対象になるので、それまでの間)。ただし、高額所得者は(1)で救済される。貧困層向けの医療保険制度「メディケイド」は国から各州に順次移管する。

実は、このように制度の各論を「いじる」ことで、連邦政府の負担スキームと加入している民間の各保険会社の算定が変わり、「個々の加入者の負担額(保険料と診療時の自己負担額)」が大きく変化する可能性があります。ですが現時点では、そうした詳細は全く不明なまま、まずは制度の大枠について政界での議論が始まっています。

その議論は、大まかに言えば、次のようなマトリックスになっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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