コラム

オバマケア代替案は、このままでは成立しない

2017年03月09日(木)17時00分

まず、トランプ大統領を当選させたコアの支持層としては、(1)はアメリカの保守思想から見れば当然で、これだけでもオバマの「独裁・強権」から解放されると受け止め、イデオロギー的に歓迎されると思います。一方で(2)については、周囲に恩恵を受けている人がいるので支持。(3)については富裕でない高齢者や、貧困層には不利益ですが、実際のトランプ支持者は余裕のある層なので、「知ったことではない」ということになるのでしょう。

一方で共和党の本流の考え方は違います。彼らは、(1)には基本的には賛成ですが、それ以前に(2)を廃止したいのです。とにかく、国民皆保険に近づけるために、部分的であれ公費を投入した「オバマケア」を根本から「廃止(リピール)」したい、それが彼らの「小さな政府論」です。同じ理由で、彼らにとっては(3)は当たり前の話です。

これに対して、オバマ政権と共に制度を創設した民主党としては、(2)は当たり前。(1)は全体的にコスト高になり、富裕層優遇になるので反対。(3)については許しがたい改悪なので絶対反対ということになると思います。

一番の問題は(1)でしょう。医療保険というのは、年齢が若くて健康な人口を多く取り込むことで制度が安定します。そこに「入らない自由」を認めれば、コスト増要因になります。トランプ政権は、(3)の部分でコストカットが可能と見ているようですが、それで相殺できない場合は、制度の全体が「オバマケア」以上の財政圧迫になりかねません。

政治的には、民主党は改悪反対で一本化するでしょうが、共和党は大きく分裂する気配です。(2)の部分の廃止を強く主張しているグループ(例えばランド・ポール上院議員)などは、「廃止という点では党内一致が可能だが、代替案については完全に分裂している」とトランプ案に真っ向から反対しています。

【参考記事】トランプのWTO批判は全くの暴論でもない

そのトランプ案ですが、端的に言えば、(2)を温存したことで「大多数への不利益変更を避ける」一方で、(1)を入れることで保守イデオロギーを取り込み、(3)を入れることで小さな政府論にも配慮しているということで、ホワイトハウスとしては自信満々です。

トランプ大統領は、「この法案を軽視する人間は、2018年の中間選では悲惨な目に遭うだろう」という不気味な脅しの文句を口にしています。言い方としては「廃止・代替法案」を葬り去ったら「オバマケア」が存続するから政治的敗北になるし、有権者からも見放されるということなのでしょう。これは与党・共和党の議員団に対する露骨なまでの脅迫と言えます。

ではこの法案が、現在の方針のままで仮に詳細まで立案できたとして、議会で可決される成算はあるのでしょうか? 常識的に考えれば、民主党は全員反対、共和党も半数が反対するということになれば、可決される可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

もしかしたら、ホワイトハウスとしてはこの法案が早期に可決されることは、余り考えていないのかもしれません。審議の停滞は議会のせいにして、「自分は早期に立案して公約上の責任を果たしている」と居直る作戦ということもあり得ます。単に居直るだけでなく、政治的なイニシアティブを取っているという印象を与えることもできる、そんな計算があるのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ1679ドル安 トランプ関

ワールド

関税に対する市場の反応、想定されていた=トランプ氏

ワールド

米「NATOに引き続きコミット」、加盟国は国防費大

ビジネス

NY外為市場=ドル対円・ユーロで6カ月ぶり安値、ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story