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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
参院選の「基本的な構図」とは何か?
都議選が終わりました。自公が勝って、共産が躍進したというのは、一見すると不安定な左右対立型の「途上国タイプの格差社会」になったようですが、そんな大げさな解釈をする必要は実はなく、投票率が低かったために組織政党が勝利したことに過ぎないように思われます。
それはさておき、この都議選のムードがそのまま7月21日投開票予定の参院選へ続いていくだろうというのが、現在の多くの専門家の見方であり、どうもそのような気配です。仮に参院選も「低投票率」となり「自民党が勝利」して「無党派層頼みの政党は敗北」するとしたら、要するに自民党政権は「無党派層に消極的に支持された」ということになると思います。
恐らく、それが現在の政局の基本構図だと思うのですが、ではどうして「消極的支持」なのでしょうか? その背景にあるのは、「ホンネとタテマエ」の間にある「乖離」だと思います。特に現在、日本の政治が直面している「ホンネとタテマエの乖離」の激しさが、今回の参院選では大きな要素になっていると思います。
まず「アベノミクス」の問題があります。無党派世論としては「巨額の財政赤字を抱えながら、意図的に通貨価値を下げるのは国債暴落などの破綻リスクを高める」という「タテマエ」は理解していると思います。その一方で「とりあえず株高で消費が動き出し、円安で輸出産業が蘇生したのなら、その成果は活かしたい」という「ホンネ」もあるわけです。
続いて「消費税率アップ」の問題もそうです。タテマエとしては「増税による財政規律の改善は国際公約に等しいので、万が一先送りになれば国債暴落の危険がある」という理解は、相当に広く共有されていると思います。その一方で「景気には、消費税率アップを吸収できるだけのパワーがあるのか自信がない」というホンネもあるわけで、その乖離も相当なものです。
またエネルギーの問題もそうです。「多くの人間の生存本能に恐怖感を与えたり、国論の激しい分裂を招いた核の平和利用は極小化したい」という「タテマエ」と、「円安環境の中での化石燃料への過度の依存はまずい」とか「事故炉に比較してはるかに安全度の高い原発新型炉の輸出は産業として捨てられない」という「ホンネ」の乖離も激しいのです。
中国や韓国など近隣諸国との外交に関しては、「経済的にも社会的にも運命共同体的な側面はゼロにできない以上、現実的な関係改善は必要」という「タテマエ」と、「そうは言っても、ナショナリズムに自己を投影してしまう世論の存在を考えると国論を割って社会を暗くするのもイヤだ」という「ホンネ」に分かれています。沖縄問題などは、それこそホンネとタテマエに二重三重に引き裂かれた問題だとも言えます。
この間の政局を動かしてきたのは、この「ホンネとタテマエの乖離」という問題です。まず2009~12年の民主党政権を通じて、無党派世論はある種の「タテマエ」の実現を期待したわけです。
どうして09年に政権交代が起きたのかというと、麻生政権までの古い自民党というのは、個別の「ホンネ」の集合体であり、もっと言えば利害当事者の影響力の集合体というイメージであったわけです。結果的に、そうした利害当事者の集合体的な運営では国家の大きな問題に対処できなくなったということがあり、その中から「立派なタテマエ」を言う民主党への期待が膨らんだわけです。
では、世論は「タテマエ」を美辞麗句で固めた「民主党のマニフェスト」を100%信じたのかというと、そうではなく、「ホンネとタテマエを抱え込む度量」としての「統治能力」を「新政権」に期待したのです。
しかしながら、民主党はその期待に応えることはできませんでした。その結果として、野田政権は崩壊し、安倍政権が発足したわけです。ですが、この第二次安倍政権というのは古い自民党の体質からは変化してきています。というのは「ホンネとタテマエを抱え込む」ということを意識してやっており、それが「とりあえず日本政治における統治ということだ」というスタイルになっているのです。09年以前の自民党が持っていた利害関係者の集合体という性格は薄れています。
例えば、アベノミクスに関しては、推進論一本の麻生副総理と、折にふれて「副作用」への警戒を口にする甘利経産相などには「閣内の不一致」があるわけです。また、原発推進の問題に至っては、首相と首相夫人が全く違う見解を口にしているわけですが、そこでの「家庭内不一致」を全く隠そうとしていません。外交方針に至っては、安倍首相の言動自体が「ナショナリズム」と「関係改善」の2枚のカードを使い分けているフシすらあります。
そこで興味深いのは、党内にしても、首相個人にしても、あるいは首相の「夫婦間の問題」にしても、「不一致」が世論から許されているということです。現在の安倍政権に関しては、ホンネとタテマエの「どちらかを選択する」ことを期待されているのではなく、「ホンネとタテマエを抱え込む」ことが期待されているからです。
この期待というのは特に無党派層からのものは「消極的な期待」であり、その結果として「消極的な支持」なのです。ここで言う消極的というのは三重の意味があります。「民主党のように失敗してもらっては困る」という消去法での支持だということと、「本来はタテマエの実現する社会であって欲しいが、ホンネの部分で動くのも仕方がない」という消極的な意味もあります。また現在の自民党の求心力になっている保守イデオロギーが「右に寄り過ぎているという警戒感」もあると思います。
消極的支持というのはどのような形を取るのかというと、低投票率になると思います。結果的に都議選と同様にテクニカルな理由で組織政党が勝利し、無党派票は棄権かあるいは分散してしまうでしょう。無党派票は実はそうした投票行動もしくは棄権行動というのが、自民党を勝たせることは分かっていると思います。その意味からも「自民党への消極的支持」になるのだと思います。
ここでひとつの疑問が湧きます。それは「そこまでホンネとタテマエを抱え込めるのなら、ホンネとタテマエの中間にある現実的な中道路線を具体化すれば、積極的な支持を獲得できるのでは?」という疑問です。
この疑問に関しては、残念ながら現在の自民党にはそうした可能性は薄いと言わざるを得ません。そこまでの政治的なパワーはなく、高齢者の怨念のような保守イデオロギーと、ネトウヨ的な現役世代の感情論などを中核にして「保守的な求心力」を据え、そこに官僚組織との親和、保守的な財界との親和などを加えつつ、党内の議論をある程度自由にして活力を維持しているのが現在の自民党だからです。
その意味で、無党派世論の「消極的な支持+警戒感」という力が「ブレーキ」となって、自民党政権を結果的に「中道実務政権」の範囲から「はみ出さない」ようにしている、それが13年夏の日本の政局の基本構図だと思います。残った時間も短いことですし、この構図のまま7月21日の投票日を迎える可能性が高いのではないかと思います。
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