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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
五輪開会式に見る「国の自己紹介」の難しさ
先週の金曜日に開幕したロンドン五輪では、映画監督ダニー・ボイル(『トレインスポッティング』、『スラムドック$ミリオネア』)が演出した「英国の自己紹介」が話題になりました。構成としては英国の長い歴史を概観したものですが、内容にはボイル監督による一種の「穏健左派の視点」がハッキリ入っており、なかなか興味深い「ショー」でした。
まず、ボイル監督は英国の原点を「農村」に置きました。豊かな緑と穏やかな気候に守られた農村が国の原点という見方です。続いて産業革命が大きく国家のありようを変えますが、その主役はあくまで労働者という描き方がされます。更に二度の世界大戦での勝利ということも描かれますが、これも無名の兵士への賞賛という視点、そして戦後に達成した「福祉国家」英国の誇りとして国民皆保険制度(NHS)が大きく取り上げられます。
その後も、ボイル監督の「視点」は随所に感じられました。エリザベス女王が「007と共にパラシュート降下」をするという演出は、君主制を庶民文化の象徴という視点から描こうという意図が感じられましたし、映画『炎のランナー』の音楽の部分では、世界最高の指揮者の一人であるサイモン・ラトル氏とロンドン交響楽団というビックネームを、喜劇役者のローワン・アトキンソンの「芸」のバックに使うなど、あくまで庶民の視点ということが強調されていました。『ヘイ・ジュード』によるエンディングも、そうした流れの延長に置かれていたために、自然な流れとなっていたように思います。
これだけであるならば、「どこの国にもいそうな穏健左派」の視点ということになるでしょうが、ボイル監督ならではのユニークなメッセージというのも埋め込まれており、その点は流石であったと思います。
例えば、産業革命の部分で、シェイクスピア俳優の第一人者であるケネス・ブラナー(『ハムレット』の映画化を監督主演したことで有名。ハリウッド映画の『マイティ・ソー』の監督もやっている才人です)に、当時の英国随一の技術者であったI・K・ブルネルの扮装をさせて、シェイクスピアの『テンペスト(あらし)』の中に出てくる「島の住人」キャリバンのセリフを言わせています。
ブラナーは、なかなかの名調子で「この島を恐れてはダメですよ。この島は何とも賑やかなんです」に始まる「不思議な島の自己紹介」を朗々とやったのです。この『テンペスト』というお話に関しては、奪った島を地元の人々に返すストーリーが「植民地主義への自己批判」であるという解釈がありますが、ボイル=ブラナーのこの開会式での意味合いは明らかに「不思議な島=グレートブリテン島」であり、その「賑やかな」土着の庶民が産業化もやってのけたんだという意味合いもそこには感じられるわけです。
そうなると、スカンジナビアやフランス、そしてドイツからの「外来王朝」への批判という寓意もピリ辛の「隠し味」として入っているのかもしれませんが、この辺はアメリカに住んでいる私には判断はしかねます。一方で、アメリカでは「山高帽のケネス・ブラナー」の姿を「エイブラハム・リンカーン」だと思って見ていた人が多いという報道もあり、こちらの方は何とも情けない話ではあります。
さて、ボイル監督の演出ですが、最後は、ITによる新たな産業革命が世代間断絶という危険をもたらしつつも、新しい英国に文化と産業の可能性をもたらすものというトーンで「英国史」が締めくくられるわけです。そこには、ITによる庶民のネットワーク参加というインフラは、改めて庶民のパワーによる英国の発展の可能性を秘めているという楽観的な、しかし十分にユニークなメッセージも感じられました。
そんなわけで、ボイル監督の演出は、恐らくはキャメロン首相にもエリザベス女王にも決して快いものではなかった可能性があります。そうではあっても、やり切ってしまう大会実行委の「図太さ」と、それでも華麗にスルーするどころか「乗って」しまう保守派なり王族の「図太さ」が見事に均衡しているのが英国の「国のかたち」であるならば、その本質が見事に浮かび上がったようにも思えます。
ところで、仮に近い将来に日本が再び五輪のホストをすることになったとしたら、どのような「自己紹介」が可能なのでしょうか? 日本の場合は、左右対立の均衡によって「国のかたち」が成り立っているという姿を「国際社会に理解してもらえるように」表現するというのは、非常に難しいように思われます。例えば、長野オリンピックでの浅利慶太氏は「伝統芸能の紹介+世界の平和と環境保護」といった組み合わせで逃げるしかなかったわけですが、仮に「次」があるとしたら、どんな「自己紹介」が可能なのでしょうか?
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