コラム

トランプから習近平への「初対面の贈り物」

2017年04月10日(月)15時40分

<中国はトランプを「買収しやすいビジネスマン大統領」と見ていたが、トランプは初の米中会談に合わせてシリア空爆を実行するという想定外のパンチを習近平にお見舞いした>

終わったばかりの「川習会(トランプ・習近平会談)」のニュースは中国のネット上で大きな話題になっている。中国共産党は今回の訪問をかなり重視していたが、それは彼らが対面する新大統領が「想定外」のカードを切る人物だからだ。

トランプは当選する前から、中国に対する強硬な主張を繰り返していた。海外に流出した就業機会を取り戻す、あるいは米中間の貿易赤字を逆転させる......といった具合だ。昨年の米大統領選挙の期間中、アメリカだけでなく全世界の世論のかなりの部分は一方的にヒラリー・クリントンが当選すると考え、ビジネスマン出身のトランプを嘲笑した。中国も例外でなく、この候補者の勝利に対応する準備がまったくできていなかった。

トランプは大統領就任後、中国の外交政策を混乱させたが、一方で中国には楽観的な見方も広がった。多くの識者はトランプが骨の髄からビジネスマンであり、人権問題に対する関心は低い、と考えた。1日中「アメリカ・ファースト」についてばかり語っている大統領は金銭で買収しやすく、そして中国が最も得意とするのが金銭による買収だ――。彼らは人権問題を語らないアメリカ大統領を扱いやすい、と見ていた。

しかしトランプはやはり簡単には行かない大統領だった。4月6日に米中首脳が初めて会談した後、2人の元首が共同で記者の取材に応じた時、トランプは隠そうともせず、こう言い放った。「われわれはすでにかなり長い時間討論したが、今のところ何も成果はない。まったくない」。その後、両国の友情の発展に期待する、といったお決まりの外交辞令も語られたが、その場はかなりばつの悪い空気が流れているように見えた。

トランプがパンチをお見舞い

さらにばつが悪かったのは、トランプが習近平を招いた晩餐会と同時刻に、米軍がシリアの空軍基地に対して59発のトマホークミサイルを発射し、習近平に対する「初対面の贈り物」としたことだ。晩餐会が終わる時、トランプは直接習近平に米軍がすでに空爆を始めたことを伝えた。習近平は何の手を打つ暇もなく、トランプの話に理解を表すことしかできなかった。

中国はこれまでずっとアメリカのシリア政策を批判し、ロシアと協力して国連安全保障理事会で対シリア決議に反対してきた。トランプは習近平が直接態度を表明するよう追い込み、中国の外交チームはこれに対応できなかった。共産党系メディアも手足を縛りつけられ、アメリカの軍事行動をあからさまに批判できなかった。

米軍によるシリア空爆は、習近平の訪米中に合わせて行う必要はまったくなかった。トランプはあえて米中両国首脳の晩餐会の席で、習近平に対する「初対面の贈り物」として実行することで、共産党に重いパンチをお見舞いしたのだ。

トランプは習近平と北朝鮮問題について取引するつもりもない様子で、両国の駆け引きの駒にさせられるのではないかと心配していた台湾もほっと一息ついた。買収しやすい「ビジネスマン大統領」が実は相手にしにくい難敵だったことで、米中両国のアジアでの争いはさらに激しくなるだろう。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story