Picture Power

【写真特集】殺戮者の子供と生きたルワンダの母親たちの25年

DISCLOSURE–RWANDAN CHILDREN BORN OF RAPE

Photographs by JONATHAN TORGOVNIK

2019年12月13日(金)19時00分

<母アネットと息子ピーター、*本文後のキャプションに続く>

<殺人者であるフツの血を引く赤ん坊は忌み嫌われ、母と共に周囲から孤立した>

アフリカ中部の小国ルワンダで、多数派のフツ人が少数派のツチ人100万人近くを殺害した「ジェノサイド」から25年がたった。

殺戮の間に、フツの民兵集団によって25万~50万人ものツチの女性が性的暴行を繰り返し受け、およそ2万人の子供が誕生したといわれる。極めて父権的な地元社会では、子供は父の一族と見なされるため、殺人者であるフツの血を引く赤ん坊は忌み嫌われ、母と共に周囲から孤立した。

今では「アフリカの奇跡」といわれる発展を遂げるルワンダの中で、母子たちは何世代も受け継がれる複雑なトラウマと戦い続けている。

写真家のジョナサン・トーゴブニクは、2006年から3年間彼らを訪問。その様子を本誌07年9月19日号「紛争が生んだ母子の肖像」で紹介し、写真集『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』(邦訳・2010年、赤々舎)を出版した。

それから約10年後、トーゴブニクは、成人して出生の経緯を知った子供と母親たちを再訪し、かつての写真と並べた。

わが子を見るたびに、おぞましい体験がよみがえり、愛することができないと語っていた母親や、実父が母の家族を虐殺した殺人者だと聞かされた子供たちは、今どうしているのか。残忍な境遇の中での葛藤、親子のねじれた関係性、そして、ほんの少しの希望――トーゴブニクは、紛争地帯で武器として行われる性的暴行と、その終わりのない影響を浮き彫りにする。

【冒頭写真キャプション】
<母アネット>(前回取材時)両親と兄たちを目前で次々と撲殺された。度重なる拷問と性的暴行の末に集団墓地に投げ捨てられ、死体の山の中からはい出した。
(現在)襲われたときにマチェーテ(山刀)で切り付けられたことに起因するひどい頭痛に今も悩まされる。でも前回の取材で当時の体験を吐き出したことで、少しずつ同じ体験をした者同士で話し合えるようになってきた。もうすぐ大学を卒業する息子を見ると、彼には未来があると思えて安心できる。

<息子ピーター>母から当時のことを聞いたのは8年前。 寝室に腰掛けて話してくれたが、ものすごく悲しそうで、聞いた話は忘れることにした。しかし友人や姉のようでもある母との関係はとても良く、義父も自分を愛してくれたため、やがて自分の出自のことは自由に話せるようになった。現在は大学で土木工学を学んでいる。地域の子供を代表して大統領に会ったこともある。将来には希望を持っており、ルワンダの発展に尽くしたいと思っている。


pprwanda02.jpg<母オデット>凄惨な性暴力の犠牲者であり、その結果の出産を地域社会は許さず、恥とされ追放された。(現在)12年前はもう少しでホームレスになるところだったが、今は傷も癒えて仕事をしており、結婚して女児を出産した。暴行されたときに罹患したHIVの治療も受けている。息子のことは愛しているが関係はうまくいっていない。特に私の結婚について不満だったようだ。彼が生まれた経緯を話したのは2015年。そのときは同情してくれたが、今は私と夫に対しての敬意は感じない。大学に入った息子は飲み歩いていると聞き失望している。

<息子マーチン>そのことを聞いたとき、受け入れるのには時間が必要だと感じた。実の父が殺人者で強姦魔だということは恥だし、傷ついた。自分も同じように暴力的性向を受け継いでいるとみる人もいて、それもまた傷ついた。でも母が出生について話してくれて、おそらく関係は修復に向かうと思う。自分がどのように生まれたのかずっと疑問だったことが仲たがいの主な原因だったから。母が中絶せずに犠牲を払って自分を育ててくれたことは感謝している。愛してくれたことも。


pprwanda03.jpg<母バーナデット>大勢の民兵に暴行された上、棍棒で足を粉々になるまで打ち砕かれた。(現在)昔は私の兄や親族などが暴行のことで私を侮辱したり、「人殺しの子供」と息子を呼んだりしたが、今はそれもなくなった。息子に出生の由来を告げたとき彼は大変なショックを受けていた。ツチの虐殺者がどんなふうだったか、しきりに聞きたがった。幸いにも息子は地域でも評判の人格者に育った。でも私の人生は虐殺がなければもっと良いものになっていたはず。

<息子フォースティン>13歳のときに、母がレイプされ自分が生まれたことを知った。心臓を刺されたようにつらかった。一度牢獄にいる父に会いに行ったが、私と話したがらなかった。その後、出所した父が許しを乞いに来た。母と私は考え、許すことにした。寝る前に時々、なんでこんなふうに生まれてきたのかと考える。父と自分が似ていると思われないように、注意深く、善く生きなければと自分に言い聞かせている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story