Picture Power

【写真特集】殺戮者の子供と生きたルワンダの母親たちの25年

DISCLOSURE–RWANDAN CHILDREN BORN OF RAPE

Photographs by JONATHAN TORGOVNIK

2019年12月13日(金)19時00分

pprwanda04.jpg<母アリン>夫は射殺され、4人の子供と共に、民兵に捕らえられた。わが子の目の前で、多くの民兵から性的暴行を受け続け、子供たちとも生き別れた。赤ん坊には死んでほしかったが、看護師に説得されて母乳を与えるようになった。家族を殺した男の血を引く子を、決して愛することはないと語っていた。後に、孤児院にいた子供たちと再会。(現在)2009年死亡。ジェノサイドの際の性的暴行でHIV感染したことが、死期を早めたと考えられている。

<娘ジャッキー>生前、母がなぜきょうだいたちの中で私にだけつらく当たるのか疑問に思っていた。でも母が死んでから兄に自分の出生について聞いて納得した。死んだ母の寝室に隠されていた日記には、彼女の夫や親族全員が殺された経緯や、母と私の境遇が「つら過ぎる」とも書いてあった。母は真実を私から遠ざけることで私を守ろうとしたのだと思う。母を許そうと思う。私の人生は現在、あまり良いものではないけど、将来は弁護士になるのが夢だ。


pprwanda05.jpg<母イザベル>息子を見るたびに、何人もの民兵から受けた暴行のトラウマがよみがえる。拷問により肉体的障害も負った。(現在)虐殺のとき自分の身に起きたことにずっと非常な重苦しさを感じてきたが、誰にも言えずにいた。息子が19歳になったときに事実を伝えて、またほかの女性とも記憶を共有できて、楽になった。暴行のことを話してから息子は真面目で誠実になり、夫代わりとして家を守ってくれる。今では息子がレイプや虐殺の記憶と結び付くことはない。

<息子ジャン・ポール>父や父方の親族のことを母に聞くたびに母が黙るので、ずっと不思議に思っていた。事実を知ったとき、ショックで昏倒してしまった。父が誰かさえ分からないことに深く傷ついた。ほかの子供たちのように、仰ぎ見ることができる人が家にいたらいいのにとずっと思ってきたが、それができなかったことは自分の人生にものすごく影響したと思う。もし結婚したら、母を尊敬しているように妻も尊敬し、子供を愛そうと思う。


pprwanda06.jpg<母ステラ>年老いた母以外、生き残った親類はいなかった。出産後すぐ死んでほしいと願いながら産み、母乳は出ないが赤ん坊は生き延びた。コンゴで性奴隷にされ、出産後もレイプが続いた。(現在)息子に伝えるために、過去を振り返るのはとてもつらかった。私が世界に伝えたいのは、虐殺が人に起こり得る最悪の出来事だということ。そしてレイプは最大の「武器」になったこと。殺されれば終わりだが、レイプは影響を引きずって生きることになる。その影響は次の世代にも引き継がれる。

<息子クロード>言うことを聞かないなら殺すか、ほかの兵士に「譲る」と脅されて母がレイプされ、自分が生まれたと聞いてとても気分が悪くなった。でも自分の出自に自分を支配されないという勇気を持つことが重要だと気付いた。もし機会があったら、なぜこんなにむごいことをしたのか、父に尋ねたかった。でも、死んでしまったらしい。責任を持って人生を歩んで、「レイプから生まれた子供」としてレッテルを貼られないように生きていきたい。


pprwanda07.jpg<母クレア>家族全員が殺された。子を産んだら殺そうと思っていたが、家族にそっくりなので、自分の一部だと悟った。(現在)レイプされたときに抜かれた歯を入れ直して、私を犯した男を訪ねて、「私の人生を壊したつもりか?」と笑い飛ばしてやった。夫は娘を「ろくでなしの子」と呼び、ひどい仕打ちをした。いつか娘を殺すのではと思い、離婚した。レイプによって生まれたことを伝えると、娘はショックを受け黙り込んだが、私を抱き締めて、「今まで黙っていたことを許す」と言った。2人で一緒に泣いた。

<娘エリザベス>義父に学費を払ってもらえず、服も買ってもらえなかった。きょうだいたちが学校に行く間、家政婦として働いた。義父には頻繁に殴られ、まるで私を殺したがっているようだった。どうしてこんな仕打ちを受けるか、母に出生について打ち明けられるまで不思議だった。とても悲しかったが、両親とも失った人もいるなかで私には母がいる、と思い直した。出自を知ってよかったのは、ようやく父に関する疑問が解決したこと。

Photographs and interviews by Jonathan Torgovnik

撮影:ジョナサン・トーゴブニク
イスラエル生まれ。ドキュメンタリー写真や映画制作で数多くの賞を受賞し、欧米の主要メディア、美術館で作品を発表している。大学や教育機関での講義や指導、ルワンダの子供たちの支援活動にも携わる。この作品は、ピュリツァー危機報道センターの助成により撮影

<本誌2019年12月3日号掲載>

【関連リンク:『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』(ジョナサン・トーゴヴニク著、竹内万里子訳、赤々舎)2020年3月刊行予定

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ビジネス

AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明=ジェ

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story