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【大江千里コラム】だから僕はポップスを手放した
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1996年のアルバムの撮影で訪れたモロッコ SENRI OE
<ポップスを作るのに必要なのは、心地よい数分間に人生や恋のさわりを咀嚼して聴かせるテクニックだ。これを本能でできる年齢にはリミットがある。大江氏がポップスを手放して、ニューヨークに渡りジャズと手をつなぐまで>
僕がなぜ、ポップスからジャズに転身してニューヨークに渡ったのかという話をまだ書いていなかった。
ポップスは、ジャズもフォークもロックもクラシックも全てを材料にし昇華できる、音楽の中じゃ最も間口が広くて深い、その分、難しいジャンルだ。そこでは時代をあらゆるアングルから読む目が問われる。読む目とは「何を歌わないべきか」であり、ポップスという心地よい数分の中に人生や恋のさわりを咀嚼して聴かせるテクニックが必要になる。
この「歌わないべき」を本能でできる年齢にはリミットがある。10代のころ大阪の内陸に育った僕は海を見た経験がないから、想像しては憧れる海の曲がいっぱい描けた。団地のベランダに干されたオシメを見ながら、砂に足を取られ転がる二人の夏を描く。「塩屋」(1987年)という曲は、神戸の塩屋に行ったことがないまま、海に近い寂れたガソリンスタンドで朝を迎える二人を想像して作った。
これがやがて人生における経験値を積み、そこに重なる言葉とメロディーが深みを増し始めるとポップスは危険地帯に入る。スーパーで聞く有線放送から飛び込んでくるような明快な予感に満ちた「キラキラ」が、実生活で経験した「生々しさ」へすり替わっていく。おぼろげだった憧憬、そこに必死に手を伸ばそうとしていた自分から、もっとはっきりとしたリアルな画角に目線が変わる。
聴き手の憧れ目線から「ハワイ」や「ニューヨーク」を描いていたのが、実際にその場所を「経験」することにより逆に鈍る筆致。そうした時に攪拌(かくはん)が起こる。若い頃は経験がない分いい意味で「無責任に」冒険ができるが、一旦経験を積み始めると、目の前で起きるリアルと憧れのイメージとがそぐわなくなっていく。
瞬間にきらめく一期一会はジャズもポップスも同じだが、ポップスに特有のキラキラした短い物語とジャズの持つ喜怒哀楽が混じり合ったどうしようもない物語は決定的に暖簾(のれん)を別にする世界だ。ポップスのキラキラの純度はティーンエージから飛距離を持つほどに鮮度が薄れていく。
なぜポップスじゃ駄目だったのかは、「初めて」や「未経験」を手放していくなかで、「言いたくても言えない何者でもない自分の現在進行形のラブレター」を描く必要が僕自身の人生になくなったからだと思う。
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