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大江千里 ニューヨークの音が聴こえる
コロナ禍でピアノを始める人が増加? 大江千里がつづる、今こそ「大人ピアノのススメ」
少女と一緒にニューヨークの街角ピアノを弾く筆者 SENRI OE
<ピアノはボケ防止にも良いらしいし、今やスマホでも弾ける時代だ。15人に1人がピアノを弾くというアメリカから、大江千里がピアノの世界にご招待>
僕の友人は習い事を始めるのが大好き。乗馬やチェロにピアノと、次々に趣味の範囲を広げている。僕は彼女を「習い事上手」と呼ぶ。うまくやろうなんて思っちゃいないのだ。やっていて楽しいから、そんなシンプルな気持ちだけで生き生きしているのが羨ましいなと思う。
実はピアノがボケ防止になるという説がある。指先を動かすのがいいらしい。手は「第2の脳」と言われ、指を動かすと脳の刺激になる。右手と左手で同時に異なる動きをしたり、普段は使わない薬指や小指を意識したりするのも脳への刺激がある。
僕が知っている音楽評論家、小貫信昭氏の著書『45歳、ピアノ・レッスン!』には、楽器を人に習うのは初めてという彼が、ピアノを始めてビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」が弾けるようになるまでの悪戦苦闘がつづられている。
これが「ぞうさん」とか「むすんでひらいて」だったら本にはならなかったのかもしれない。彼の場合は、単なる習い事じゃなくて、ピアノであの名曲を弾けるようになる、という明確なゴールがあった。そういう理由でピアノを始める人もいるだろう。
あるデータによると、アメリカでは15人に1人がピアノを弾くという。僕が通っていたニューヨークの大学のジャズ科では他の楽器をやっている生徒の中でピアノを弾ける率が高く、しかもとてもうまかった。
彼らと話をすると、「子供の時に通っていた教会で、ゴスペルをみんなで歌うときにピアノやオルガンに触れる機会があったから」と口をそろえて言う。ピアノは習うより慣れろということか。
フランクに鍵盤と友達になる
そんなある日、飲み仲間でもある仲のいい編集者から、27年ぶりにピアノの世界へ戻ってきたという報告が来た。電子ピアノを買って、15歳まで習っていてやめたピアノを再開したのだという。
「いざ電子ピアノを買いに楽器店に行ったところ、コロナ禍で自宅に籠もるようになったせいか、『大人ピアノ』を始める人が増えているらしい」と彼女は言う。
ニューズウィークの中高年読者の中にも、ピアノをやってみようかな、という人がいるかもしれない。リアルピアノに近いハンマータッチにこだわるならば別だが、音源で鳴らすならある意味、鍵盤は小さくて軽いものでいい。
今や演奏は「GarageBand(ガレージバンド)」などの音楽制作アプリをダウンロードすれば、パソコンやスマートフォン上の鍵盤でも音が出る。僕の一昨年のアルバム『Letter to N.Y.』は、ステイホーム期間にこの方式で製作した「1人ジャズ」だ。
譜面なんてなくても、"こちょこちょ"くすぐって音を奏でるのがいい。気が向いたら1小節、ワンコーラスマスターするのに1年かかるのも楽しい。大事なのは「自由に鍵盤に触れる」感覚と「弾けるようになりたい名曲」をゴールにすることだと思う。
良いピアノじゃなくても、ダウンサイズさせた小さなピアノで、フランクに鍵盤と友達になれる楽しさ、これを僕は、強く勧めたい。
ピアノの良さは、言葉じゃ伝わらないような気持ちが通じることだ。そばにいる人が笑顔になるのもいい。触れれば音が鳴るのだ。弾いちゃいけない音なんてどこにもない。
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