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大江千里の「オーディション番組」考察 何が世界を熱狂させるのか
大江は83年、関西学院大学在学中に オーディションに合格してデビュー SENRI OE
<かつて『スター誕生!』は、手の届かない夢をつかむ選ばれし人たちの才能の物語だった。だが今のオーディション番組は、スター誕生の裏側の物語を見るリアリティーショーのようで生々しい>
オーディション番組がいま熱い。なぜ世界はオーディション番組に熱狂するのか。
イギリス人の音楽プロデューサー、サイモン・コーウェルが生んだ公開オーディション番組『ゴット· タレント』。サイモンをはじめ、審査員がとにかく辛口でジャッジするので見ていてハラハラする。最初のアメリカ版に続きイギリス版もヒットし、最近は日本を含め数カ国でローカライズされている。
ジャニーズ事務所所属のボーイズグループ、トラビス・ジャパンが満場総立ちで迎えられた感動の1シーンが、昨年放送されたこの番組のアメリカ版だった。「緊張してます」――審査員の問いかけを聞き取れず、素直にそう答えたメンバーの川島如恵留に会場の観客は狂喜乱舞した。
思い返せば、日本には1970~80年代に才能豊かなタレントたちを生み出したオーディション番組『スター誕生!』がある。この番組は、僕らには手の届かない夢をつかむ選ばれし人たちの才能の物語だった。
だが今や、オーディション番組は舞台の袖での司会者とのハイタッチ、抱き合う姿、家族が涙して駆け付ける姿など、見ている側に寄り添い降りてきてくれている印象が強い。スター誕生の裏側の物語を見るリアリティーショーとも言うべきか。
特別な存在というより、昨日まで隣にいた人が世の中を変えちゃうまでになる、途中経過も映し出すリアリティーショーの生々しさ。それこそが現在オーディション番組に世界中が熱狂する理由ではないだろうか。
SNSの発達により、現代が「素人の時代」になったことがオーディション番組の台頭に影響しているとも僕は思う。素人だからこその、演出を超えた生々しさを視聴者が共有できてしまう時代だ。
リアリティーショーの残酷さ
かつてオーディションは、アーティストと事務所やレコード会社とを引き合わせるマッチメーカーの装置だった。『スター誕生!』で有名事務所やレコード会社の人たちがプラカードを上げるシーンを昨日のことのように思い出す。
実は僕も「ソニー・サウンド・ディベロップメント」というオーディションで世に出た。そこで将来を一緒に歩むことになるレコード会社のプロデューサーに出会い、現在への道が開けたのだ。
あの時、表には出ていない楽屋でのやりとり、NGワードなどの会話がもし、カメラが回っていて外部に出ていたら?と思うと......ゾッとすると同時に、ちょっぴり「見てみたい」気もする。
一方でリアリティーショーは、参加者にとっては短期間で全てをさらけ出し、生き残りを懸けて魅力をアピールするのだから残酷だ。日本で記憶にあるのが、2012~20年に放映された『テラスハウス』。あれはリアリティーショーの負の一面が浮き彫りになってしまった。
日本がアメリカほどにリアリティーショーに寛大でないのは、さらけ出すことに対する違和感やアレルギーがあるのかもしれないと思う。
この「素人の時代」に終わりは来るのか。僕は、原石である素人を面白くするシナリオを、作家がどれだけリアリティーを持って書き続けていけるかに懸かっていると思う。
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