植民地時代のオーストラリアの復讐劇 性差別、アボリジニ迫害『ナイチンゲール』
植民地時代のオーストラリア社会の現実......『ナイチンゲール』
<植民地時代のオーストラリアを舞台にした苛烈な復讐劇。女性とアボリジニ......現代に繋がる重要なテーマを独自の視点から掘り下げる>
ヴェネチア国際映画祭で2冠に輝き、オーストラリア・アカデミー賞で最多6部門の受賞を果たしたジェニファー・ケント監督の『ナイチンゲール』では、植民地時代のオーストラリアを舞台に、苛烈な復讐劇が描き出される。この気鋭の女性監督は、徹底したリサーチによって暴力に満ちた草創期の現実に迫り、現代に繋がる重要なテーマを独自の視点から掘り下げている。
オーストラリアに流刑囚となったアイルランド女性
物語の設定は、1825年の流刑地ヴァン・ディーメンズ・ランド(現在のタスマニア)。ヒロインは、盗みを働いて流刑囚となったアイルランド人のクレア。彼女はその美しい容姿と歌声が一帯を支配する英国軍のホーキンス中佐の目に留まり、刑務所から連れ出され、兵舎で残りの刑期をつとめる年季奉公人となった。
すでに刑期を終えたクレアは、夫と幼子と暮らしているが、中佐は彼女を解放しようとせず、囚人として労働を強要し、性的虐待を加えている。堪り兼ねた夫が妻を解放するよう中佐に迫るが、取っ組み合いになってしまう。逆上した中佐は、部下とともにクレアをレイプし、夫と幼子を殺害してしまう。
自身の悪行のせいで昇進が危うくなった中佐は、上官に直訴するために島の反対側にあるローンセストンに向かう。復讐を決意したクレアは、先住民アボリジニの若者ビリーを案内人として雇い、中佐ら一行を追って危険な森を進んでいく。
オーストラリア女性の地位が低い理由......
本作でまず注目しなければならないのは、ヒロインの人物設定だ。社会史家のミリアム・ディクソンが書いた『オーストラリアの女性哀史』を知る人は、ケント監督の意図を察することができるだろう。
ディクソンは本書で、「オーストラリア女性の社会一般における地位が、何故、他の民主主義国より数段と低いのかという問題」を掘り下げている。彼女がその要因として詳述しているのが、「女囚」と「アイルランド人」であり、クレアはその両方に当てはまることになる。
そこでまず女囚について。当時、囚人は奴隷とみなされていたが、男性と女性では、背景や扱いがまったく異なっていた。流刑になる男性は重罪犯だったが、女性の場合は、45歳以下で健康であれば、すべて例外なく流刑になるのが慣例になっていたという。女囚が占める割合は囚人全体の15パーセントで、女囚の出身地については、47パーセントがアイルランドだった。
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