コラム

トランプ大統領、新型コロナウイルス感染でも株価は暴落しない

2020年10月03日(土)12時30分

10月2日、メラニアと共に陽性が判明したトランプ。新型コロナウイルスを甘く見た末の感染だけにダメージは大きい Carlos Barria-REUTERS

<大統領選直前の感染でトランプが不利になったにも関わらず株価がさほど下がらないのは、米国株式市場は大きなバブルの崩壊局面にあり、どうやって静かに売り逃げするか、という有力投資家同士のだましあいのステージだからかもしれない>

トランプ大統領およびファーストレディ、メラニア夫人が新型コロナウイルス検査で陽性が判明し、トランプ大統領は万が一に備えて入院した。最側近の31歳、元ファッションモデルの女性スタッフの感染判明での検査によるものだ。

これで株価はどうなったか?

それほど下落しなかったのである。

ダウ平均は朝方取引が始まってから300ドル余り下げたが、間もなく、下げ幅を縮小し、100ドル余りの下落で終わった。ハイテク中心のナスダックの下落幅は大きかった。しかし、この日は、米国では雇用統計の発表もあり、株価に大きな影響を与える指標であるから、トランプの新型コロナ感染だけの株価への影響を株価の動きから図るのは難しい。

ここは、論理的に、定性的な推測をしてみよう。

まず、トランプコロナ感染で株価に与える影響の中で、最も大きなものは、11月の大統領選挙の結果に与える影響だ。トランプ再選は、社会への影響はともかく、株価への影響は間違いなくプラスであるから、トランプ再選の確率が下がる、ということが株価への影響のほとんどすべてだ。

個人的には、他の影響は何も考えなくてよいと思う。

では、トランプ感染で当選確率は下がるのだろうか。
日本的に考えれば、もちろん、致命的に下がるので間違いないと思うだろう。コロナに感染したことを有権者は非難して、誰もトランプを支持しなくなるだろう、と思うだろう。

しかし、これは間違いだ。

コロナ感染で責められるのは日本だけ

まず、コロナ感染が判明すると、その人が、周りから、そして世間から非難されるのは、世界でほぼ日本だけだ。少なくとも欧米ではまったく非難されない。実際、3月には、ニューヨークで感染し、自宅待機している人々が次々とテレビにzoomなどでもちろん実名、ライブで、顔も自宅も丸出しで生出演し、CNNなどでは、コロナが実際どのような症状があるか、経緯はどうなのか、生活はどうしているのか、と、かなり楽しい、和やかな雰囲気でインタビューが続き、最後には、その感染者をまさに英雄としてたたえ、コロナと戦う戦士として、みんなで応援する、という雰囲気で終わる。日本がおかしいのである。

だから、トランプの感染自体は、選挙にマイナスにはならない。ブラジルでもイギリスでも大統領や首相がコロナから回復したことは、英雄で、コロナに負けない強いリーダー像を示し、支持率が上がったのである。

トランプもその可能性があるから、むしろプラスというシナリオはあり得る。

しかし、タイミングが悪すぎる。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story