コラム

【論点整理】英国EU離脱決定後の世界

2016年06月26日(日)21時33分


4)実体経済への影響は? 欧州以外の世界へは?

 欧州が停滞する分、世界経済にも当然マイナス。リスク資産市場はリスクオフになるので、下落するので、これも間接的にマイナスの影響。為替変動が与える影響はあるが、ドル高、円高なので、この二国にとっては、消費者にはプラス、輸出企業にはマイナス。

 しかし、トータルで見て致命的なダメージではなく、リーマンショックと比べようもない。

5)欧州の経済はどうなる?

 英国を失えば、EU全体の存在感は低下し、パワーも落ちる。よってマイナスがひとつ。

 二つ目に、各国国内が混乱する。EU離脱派が台頭し、これを収めるために、さまざまなエネルギー、リソースを割かなければならず、マイナス。エネロス、効率低下で、マイナスふたつめ。

 さらに、社会が分断され、社会的に不安定に。不安定な社会は経済にはもちろんマイナスで、マイナス3つめ。

 4つめに、ロシアがこれに乗じて存在感を高める、ということが不安視されている。不安視されているだけで、欧州への投資は冷え込み、マイナス。

 5つめに、本質的な影響はなくても、外から欧州への投資は手控えられるために、マイナス。
これだけのマイナスがあるので、かなりマイナスとなる。

 為替も弱くなる。

 一方、危機感が非常に高まるので、EUは以前よりも結束を強める可能性がある。

 英国に続き、離脱者がでないように、全力を尽くす。どこの国も国民投票は全力で避ける。

 ドイツとフランスも今までになく結束する。

 EU官僚、規制の改革も進むだろう。

 この結果、プラス面もある。

 特に小国はEUが崩れては困るため、協力するようになるだろう。

 難民の受け入れも最小限にし、EU内の移動の自由をなんとしても確保しつつ、実害を抑える。だから経済にも社会にもプラスになる可能性もある。

 トータルではマイナスであることは間違いないが。

6)英国の経済はどうなる?

 予想を上回るダメージを受けるだろう。

 英国は独立してもやっていける、という議論は間違っている。なぜか。

 第一に、ネットワークの利益は過去に比べて大きいし、日々大きくなっている。したがって、過去の経験則やイメージよりも、ダメージは大きい。

 第二に、英国市場の存在感、規模がある程度大きく、欧州以外の国々にとって魅力がある、というのは、EUの玄関口としての価値が最低でも半分はある。それは一見英国自身の価値に見えるが、EUから離脱すれば失われるものである。

 第三に、したがって、海外からの投資は急減する。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story