日本は若年層の雇用格差を克服できるのか
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<長きにわたって経済的に「痛めつけられてきた」若年層。その負のトレンドもようやく反転する兆候が見られる。雇用条件の改善は、デフレが克服されてマイルドなインフレが定着すれば、自ずと実現される将来だ>
アメリカの格差と日本の格差
2016年11月のアメリカ大統領選挙は、共和党候補ドナルド・トランプの想定外の勝利となった。その背景の一つは、この20〜30年の間に拡大してきたアメリカの所得格差であろう。その経済状況に対する白人低所得者層の積もりに積もった不満が、その驚くべき選挙結果をもたらしたということである。これは、予備選でヒラリー・クリントンと民主党候補の座を最後まで争った「社会主義者」バーニー・サンダースの躍進、さらには所得分配の不平等をテーマとしたフランス人経済学者トマ・ピケティの大著『21世紀の資本論』が2014年に英語版が出版されるとアメリカでベストセラーになったことと同根の現象である。これまでは競争の結果としての所得格差に比較的に寛大と考えられてきたアメリカの人々の経済規範にも、大きな変化が現れ始めているのかもしれない。
所得格差が問題視されているのは、日本でも同様である。日本の場合には、特に2000年代に入った頃から、「格差社会」という言葉がメディアなどで盛んに使われるようになった。そこで言われてきた格差とは、主に正規か非正規かという雇用形態における格差である。労働者の中で非正規の比率が高まり始めたのは、1990年代後半以降のことである。それはいうまでなく、バブル崩壊後の厳しい経済状況を乗り切るために、企業が賃金コストを切り詰めるべく、正規を非正規に置き換え始めたからである。
そこで最も厳しい状況におかれたのは、学業を終えて新規に労働市場に参入した若年層であった。というのは、正社員の解雇が自由にはできない終身雇用という制度のもとでは、企業が正規を非正規に置き換えるためには、まずは新卒採用の正社員求人を減らすことが必要だからである。結果として、新規学卒の就職率は急激に低下し、正規雇用からはじき出された若年層が、有期契約や派遣労働などの非正規雇用に滞留し続けることになった。
彼ら若年層非正規労働者の多くは、自発的に非正規を選んでいる学生アルバイトや主婦のパートタイムなどとは異なり、正規を望みながらそれを得られていない「不本意非正規」である。正規とほぼ同じ仕事をしながら、給与や待遇に大きな格差があるのに、わざわざ非正規の立場を選ぶはずもないからである。
その非正規労働者たちは、給与水準のあまりの低さから、やがて「ワーキングプア」と呼ばれるようになった。そして、不運にもそうした厳しい雇用状況に直面せざるを得なかった世代は、「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれるようになった。
将来の日本経済を担うはずの若年層が、これほどまでの長きにわたって経済的に「痛めつけられてきた」ツケはきわめて大きい。それは、単に勤労意欲や労働における技能形成の毀損には留まらず、日本の少子化といった問題にまで及んでいる。若年非正規雇用者が経済的な理由から結婚を忌避しがちであること、また結婚してもやはり経済的な理由から子どもの数を抑制しがちであることは、各種の調査が明らにしている。
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