コラム

日本は若年層の雇用格差を克服できるのか

2016年12月12日(月)15時40分

バブル期に近づく新卒の就職市場

 このように、現在の中年層も含むいわゆる「氷河期世代」は、バブル崩壊後のほぼ4半世紀にわたって、雇用機会の不足を原因とする経済的虐待に甘んじ続けてきた。ところが、その負のトレンドもようやく底を打ち、徐々に反転しつつある兆候が明確に見られる。たとえば、つい5年ほど前までは、1990年代末と2000年代初頭に続く「第3次就職超氷河期」と呼ばれていた大学新卒の就職市場では、就職者の就職希望者に対する比率である就職率が2016年3月末時点で97.3%となり、データが取得可能な1996年3月末卒業者以降の最高値となっている。さらに、高校新卒の就職率にいたっては、99.1%にも達している。

 新卒の就職市場がこのように改善している基本的な理由は、まったく明らかである。それは、企業がこれまでのように単に正規雇用を非正規雇用に置き換えるのではなく、積極的に正規雇用を増やし始めたからである。そしてそれは、12月5日付拙稿「日本経済はいつ完全雇用を達成するのか」で既に論じたように、日本の労働市場が徐々に完全雇用に近づきつつあるからである。

【参考記事】日本経済はいつ完全雇用を達成するのか

 日銀は現在、2018年度頃までに2%インフレ率を達成という目標にコミットしているが、これは「日本の労働市場が2018年度までにはほぼ完全雇用に到達する」ことを意味している。もちろん、経済の行く先にはさまざまな不確実性が存在するので、実際にその通りになるか否かは、2018年になってみないと分からない。にもかかわらず、ここではあえて「日銀の想定通りに経済状況が改善し続け、2018年度までにほぼ完全雇用が達成される」と仮定しよう。

 そこで労働市場に何が生じるのかは、ほぼ予見可能である。まず、非正規労働市場での従業員確保が、企業にとって次第に困難なものになっていく。その結果、企業は労働力の確保のためには、正規雇用を増やす以外には選択肢がなくなる。それは、これまで一方的に拡大し続けてきた不本意非正規労働者が、ようやく減少し始めることを意味する。

 要するに、これまでの正規雇用から非正規雇用へという労働市場のトレンドが、明確に反転し始めるということである。その恩恵を最も大きく受けるのは、大学や高校の新卒就職希望者であろう。バブル崩壊以降の4半世紀にわたって続いてきた「若年層経済格差拡大の時代」が、ようやくここに終わろうとしているのである。

日本的雇用システムの本質

 これまで日本の論壇において、日本の雇用における待遇格差や若年層の就職難という問題が論じられる場合、その原因として常に槍玉に挙げられてきたのは、日本的雇用システム、とりわけそこでの終身雇用制度であった。確かに、終身雇用とは、インサイダー=正社員とアウトサイダー=非正社員を画然と区別し、前者にのみ長期雇用を保証するという制度であるから、本質的に待遇格差を内包している。そして、企業が正社員の数を減らそうとすれば、まずは新卒採用を減らすことになるから、アウトサイダーとして正規雇用からはじき出されることになるのは、圧倒的に若年層である。

 とはいえ、問題の原因を終身雇用あるいは日本的雇用システムといった「制度」にだけ求めるとすれば、それは「マクロ経済状況」というより本質的な要因を見失わせることになる。端的にいえば、若年層の経済格差や貧困がここまで拡大したのは、「日本経済にバブル崩壊以降四半世紀にもわたって不完全雇用の状況が続いた」ことに尽きる。経済が不完全雇用の状態である限り、そのしわ寄せは必ずどこかに現れる。終身雇用といった「制度」要因は、それがどのような層にどのような形で現れるかに影響するにすぎない。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

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