コラム

日本人が「ジャニーズの夢」から覚めるとき

2023年04月15日(土)12時21分

博報堂が制作する雑誌『広告』の「忖度宣言」

広告代理店・博報堂が制作する雑誌『広告』最新号では、ジャニーズ事務所についての対談記事『ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか』の末尾に以下の文言が掲載され、注目を集めた。

「本記事は、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮の観点から、博報堂広報室長の判断により一部表現を削除しています。」

『広告』編集長のnoteによると、広報室長と編集長の間ではギリギリの攻防があったという。また、記事中の対談者である批評家の矢野利裕も同じくnoteで削除に至った経緯を説明している。

「ジャニーズ事務所に配慮しています」とわざわざ記述することは、通常の記事や出版物ではあり得ないことだ。この一文を読んで、ジャニーズ事務所が喜ぶとは思えない。彼らとしては「公正中立を重んじ、特定の団体への配慮はしていません」などと言いながら、陰でコッソリ配慮されることを一番望んでいる。黙って削除すれば良いものを、堂々と「忖度宣言」を出している編集長は、ジャニーズ事務所から見れば物分かりが良くないワルイコである。

広報室長は忖度宣言など掲載したくなかったはずだが、それでもギリギリOKしたのは、博報堂が広告を出稿する側であり、他のメディアに比べれば、ジャニーズ事務所に対して多少は強い立場にあるからだろう。新聞もテレビも雑誌も、ジャニーズ事務所を怒らせるのが怖くてたまらない。だから、先方が嫌がりそうな文章は、読者や視聴者には内緒で積極的に消しにかかる。あるいは、そもそも書かない。そうして「なかったこと」にする。

メディア業界で働く多くの人が、読者に内緒でコッソリ忖度するなか「私たちはジャニーズ事務所に忖度しました」と自覚して読者に公表するのは、今できる範囲の精一杯の誠意とも言える。忖度病が進行した状態の人や組織は、ついには忖度しているという自覚すら失ってしまうからだ。

幸いというべきか、本コラムを掲載しているウェブ媒体『Newsweek日本版』を運営するCCCメディアハウスはジャニーズ事務所との利害関係があまり強くないようで、カウアン氏の会見の全文文字起こし記事などを掲載している。当然、本コラムについてもジャニーズ事務所に対して特段の配慮はしていないはずだ。少なくとも、私はしていない。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

全国コアCPI、3月は+3.2%に加速 食料品がさ

ワールド

フロリダの大学で銃撃、2人死亡 容疑者は保安官代理

ワールド

ウクライナ鉱物資源協定、24日にも署名 トランプ米

ビジネス

ネットフリックス、第2四半期見通し強気 広告付きサ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 10
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story