最新記事
シリーズ日本再発見

ベンチャーで地方創生、山形の「鶴岡モデル」成功の理由

2018年09月30日(日)11時25分
井上 拓

冨田所長も「18年間、1ミリもブレていない」と話すように、県と市が一貫性を持って投資し続けていることは、大きな成功要因の一つにあげられるだろう。地方創生のためのR&D(研究開発)に対し、これほど長期にわたって投資が続けられていることは、極めて珍しく重要な差別化ポイントと言えるのではないだろうか。

そしてもう一つ、鶴岡モデルの大きな特徴としては、「ヤマガタデザイン」のような地域開発を手がける民間企業の存在が挙げられる。「山形、庄内で次の世代につなぐ街をデザインする」をミッションに、地域に必要なものをハードとソフトの両面から開発する会社として2014年に誕生した。

代表取締役を務める山中大介さんは、大手不動産デペロッパー出身。大型商業施設の開発などを担当していた。友人の父親である冨田所長、前述のSpiber関山代表との出会いによって、前職を退職し、鶴岡サイエンスパークに。

Spiberに一時入社するも、ある問題に直面する。サイエンスパーク内からベンチャーが生まれ拡張していくスピードに、行政主導による未整備地の開発速度が追い付いていない。当初の構想の21.5ヘクタールのうち、7.5ヘクタールしか着手されておらず、残り14ヘクタールが手付かず状態のままだった。民間主導で開発できないかというニーズが高まっていた。

想定していなかった課題だったが、「自分がやるべき仕事ではないか。目の前の困っている人に喜んでもらえる」。運と縁を強く感じ、開発を引き継ぐために立ち上がった。

そもそも地方創生、産業振興のためのサイエンスパークは、言い換えればそれ自体が一つのまちづくりだ。地域の利、ローカルインパクトを生み出すことが重要である。先端生命科学研究所の事業化はもちろん、地域に住む人たちとの間を断絶せず、コミュニティハブとなるような、その役割を担う人や機能が必要だと、山中さんは考えている。

そうして地元企業からの資金調達やバックアップもあり、完全地域主導によって誕生したのが、今年9月19日にグランドオープンした「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイホテル スイデンテラス)」だ。

庄内平野の水田に浮かぶかのような美しいホテルで、設計は著名な建築家の坂茂氏が手がけた。「自然体で過ごす交流と滞在の拠点」がコンセプトとなっている。地域の人たちが気軽に足を運べる空間であると同時に、ビジネスホテルの予約が取りにくく需要も多いことから、ホテルの建設へと至った。

japan180929-3.jpg

木材を基調としたロビー。3つの宿泊棟と温浴施設を備える

japan180929-4.jpg

客室は全143室。従来のビジネスホテルに比べて2倍のゆったりした広さ

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中