ベンチャーで地方創生、山形の「鶴岡モデル」成功の理由
なかでも、NASAも諦めたとされる「人工合成クモ糸」の開発で世界の注目を集めているのが「Spiber(スパイバー)」。研究所の基礎研究からサイエンスパーク内で事業化を進める担い手を代表して、関山和秀代表執行役に話を聞いた。
「サイエンスパークの一員という意識より、まず私たちには、本当に世の中に価値のあることをしたいという考えがあります。社会全体に対して、大きな役割を果たせるのかを常に念頭に置いています」と丁寧に言葉を紡いでくれた。
関山さんは生まれも育ちも東京。それまで山形に縁はなかったという。冨田所長の人柄やビジョンに惹かれ、この研究は自分がやるべきじゃないか、そして実現してみたいものがある、そう考えた。それが、たまたま鶴岡という場所だった。
「いろんな考え方があると思いますが、研究や生活環境という意味では、東京よりも鶴岡はとても過ごしやすく、私にも合っています。渋滞や満員電車もないですし、無駄なストレスを感じない。アイデアを出すにも、気分転換やリラックスできる環境です」と関山さん。
人工合成したクモの糸の繊維がメディアなどでよく取り上げられるが、それはSpiberにとって手法の一つにすぎない。関山さんが見据えている未来は、石油などのいずれ枯渇するエネルギーに依存しない素材の開発による革命。タンパク質を素材として使いこなし、人類のエネルギー問題という社会課題を根底から解決することだ。
「私たちの事業に大きな意義を感じてくれる人たちが、世界中から集まって来てくれています」。今や200人近い社員数になったSpiberは、新しい産業生態系のデザインに魅力を感じ、強い覚悟や共感を持ち、高い満足度で働く人たちばかりだ。地方都市である鶴岡という立地が自然と良いスクリーニング効果を生んでいる。
「本当に地球規模で普及・拡大をさせていこうと思ったら、短期間で決着する話ではありません。我々の強みである基礎研究の開発に注力し、そこで圧倒的なイニシアチブを取り続けられるよう、長い時間をかけてチャレンジしていく。それが結果的に、こうしてお世話になっている鶴岡に還元をもたらすものになればと考えています」
「地方に大学誘致」は珍しくないが、鶴岡の成功には理由がある
代謝(=メタボローム)解析を基盤とした先端的な基礎研究からスピンオフが連鎖し、それらバイオベンチャーの集積によって、鶴岡はまさに産官学連携のエコシステムを形成するに至った。現在は、時間をかけながら機能し始めた成長フェーズと言える。
日本の地方都市に大学が誘致されているケースは多いはずだが、鶴岡モデルの成功は何が違うのだろうか?