「おもてなし」の精神で受動喫煙防止に取り組む京都
「喫煙の有無を問わず、気持ちよく過ごしてもらいたい」
一方、店頭表示ステッカーを掲示する店舗や宿泊施設の反応はいかなるものか。
「協議会の取り組みが始まった2年ほど前にご案内をいただき、すぐに協力させてもらった」。そう話すのは、京都きっての繁華街、四条河原町や四条烏丸にもほど近い井筒町で、84年間に渡り営業を続ける老舗旅館「松井本館」の若女将、松井もも加氏。松井本館では、玄関脇の看板に「空間分煙」のステッカー(「完全禁煙」は建物内で喫煙と禁煙のエリアが壁等で区切られている必要があるため、大半の宿泊施設は分類上「空間分煙」表示となる)が掲示され、ロビーは完全禁煙。玄関を出て脇にそれた奥まった場所に、縁側風に設えられた雰囲気の良い喫煙所が設置されている。
「以前はすべての客室とロビーが喫煙可能だったが、3年前のリニューアルを機に館内を分煙化した」と、松井氏。「本館全27室中、バリアフリーの特別室1室を完全禁煙としている。また、喫煙可能なその他の部屋にも強力なイオン空気清浄機を設置し、香を焚くなどにおい対策には気を配っているため、においに関するクレームはほぼない」
将来的には喫煙と禁煙をフロア単位で分けることも検討しているという。老舗旅館にしてここまで分煙化を進める理由とは何なのか。
「分煙化は時代の流れであり、インバウンドが増加した昨今ではどの旅館でも当たり前の対策だと思う。そもそも、1年を通して国内外からのお客様がいらっしゃる京都の旅館は、総じて"おもてなし"への意識が高く、そのための努力を惜しまない。喫煙の有無を問わず、お客様には気持ちよくお過ごしいただくのが一番大切。そのために有効に機能するならばと、協議会のステッカーも喜んで掲示させてもらった」(松井氏)
率直なところ、今夏の取材当時はまだ、京都市内を歩いていても店頭表示ステッカーを見受ける機会は少なかった。まだまだ道半ばなのだろう。この先どれだけ掲示店舗を増やしていけるのか。
協議会の南部氏によれば、1年後のステッカー掲示率の目標は市内飲食店の50%以上。「京都市の半数以上の店舗がステッカーを掲示すれば、それがさらなる波及効果をもたらし、以降、京都市以外の地区にも展開しやすくなる」と期待を寄せている。
観光都市としての"おもてなし"意識を背景に持つモデル事業だけに、全国の他の自治体も期待を持って見守っているはずだ。