なぜロシアは「デスノート」や異世界アニメを禁止するか──強権支配が恐れるもの
こうしたシュルレアリスムなどのモダンアートをヒトラーは「退廃的」と断じ、ドイツ中の美術館から一掃したのである。
「現実」の支配者は何を恐れるか
なぜ「独裁者」は「目に見えない世界」を嫌うのか。それは「独裁者」が人々の内面まで支配しようとすることに原因がある。
「独裁者」と呼ばれる権力者は一般的に、抗議活動といった外面的な反対を力ずくで押さえ込むだけでなく、ものの良し悪しやどんな世界を目指すべきか、極端にいえば「何が現実か」までコントロールしようとする。
それはいわば、何がこの世の現実なのか、何がその国にとっての利益なのか、などの認識を一元化しようとするものといえる。
例えば、ヒトラーは「ユダヤ人と共産主義者の陰謀」を「現実」として国民に受け入れさせ、その迫害を「正義」として共有させた。それは外面的な支配だけでなく、内面的な支配でもあったのだ。
国民の内面まで統一することで「指導者と国民は一体」という建前が完成し、彼らは決して「独裁者」ではないという理屈になる。
だからこそ、ヒトラーはシュルレアリスムを敵視したといえる。その前提になった「目に見える世界だけが世界ではない」という考え方は、「目に見える世界」の支配者であるヒトラーの正当性や権威を否定し、彼の描く「現実」を空疎なもの、虚しいものにしかねなかったからだ。
プーチンとヒトラーの共通性
「現実を直視しろ」とはよく聞く言葉だが、何が現実かは一様ではない。同じ事象でも認識によって差が生まれるからだ。
「独裁者」はこれを無視して、国民を自分の世界観で染め上げようとする。こうした権力者にとって、外面的には従順でも内面で別のことを考えている者は、大きな脅威といえる。
この観点からロシアのアニメ規制を振り返ると、プーチン政権は多くの国の見方とかけ離れた「クリミアはロシアのもの」という「現実」で国民を染め上げようとしてきた。
しかし、(クリエーターが何を意図するかにかかわらず)「デスノート」をはじめ、異形の者が躍動し、異世界に人が転生する物語に多くの人が惹きつけられる状況は、こうした「目に見える世界」にさしたる関心をもたないばかりか、権力者の叫ぶ「現実」に背を向ける人が多いことを示唆する。
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