コラム

なぜロシアは「デスノート」や異世界アニメを禁止するか──強権支配が恐れるもの

2022年03月17日(木)14時25分
プーチンとヒトラーを重ねるデモ隊

「目に見えない世界」を拒絶するプーチンには、シュルレアリスムを忌避したヒトラーと同じ傾向が見出せる(2月24日、スペイン・バルセロナ) Nacho Doce-REUTERS


・ロシアは日本アニメを最も規制している国の一つで、とりわけ異形の者や異世界を扱う作品が規制されやすい。

・その最大の理由は、「目に見えない世界」に多くの人が惹きつけられることが、プーチン政権にとって大きな脅威になるからとみられる。

・これまでの歴史を振り返ると、「目に見えない世界」を認めない強権的な権力者は、やがて行き詰まりやすい。

「デスノート」規制の背景

日本の漫画やアニメは世界中に普及しており、ロシアもその例外ではない。昨年11月、コロナ下でも日ロの大学生がクラウドファンディングで資金を集め、J -Anime Meetingをオンラインで開催するなど、文化交流の一翼を担っている。

その一方で、規制される作品もあり、ロシアの裁判所は2021年1月、「DEATH NOTE(デスノート)」の放送・配信、および書籍販売を禁じた。「暴力的な描写が若者や子どもの精神に悪い影響を与える」というのが理由だった。

そこに名前を書かれた者は死ぬというノートを手に入れた夜神月(やがみらいと)と、彼だけにみえる死神リューク、そして事件を追う世界一の名探偵L(エル)を中心に展開する「デスノート」は、「'世の中のためにならない者'を裁き、理想の世界を目指すことは正義か、殺人か」を問いかけるもので、漫画だけでなくアニメ、小説、映画、ミュージカルにもなった。

しかし、ロシアでは2013年にデスノートファンの少女が自殺したこととこの作品の世界観や描写が結びつけられ、保護者から禁止を求める声が強かった。

また、中国やアメリカではとりわけ中学生の間で「デスノート作り」が流行し(教師の名前が書かれることが多かった)、地元警察が注意喚起することもあった。その結果、中国でもやはり禁止されている。

ロシアで進む日本アニメ規制

もっとも、ロシアは「デスノート」以外も多くの日本の漫画やアニメを規制しており、その数の多さでは世界屈指といえる。

例えば、「デスノート」を禁じた昨年の裁判所の判決では、同時に「東京喰種トーキョーグール」と「いぬやしき」も発禁にされた。検察官によると「全てのエピソードが残虐行為、殺人、暴力で構成されている」。

それ以前から、ロシアではすでに「進撃の巨人」(中国でも禁止)、「AKIRA」(地上波のみ禁止)、「モータルコンバット」なども配信や放送が規制されてきた。また、「NARUTO」、「エルフェンリート」、「異種族レビュアーズ」などに関しても検討中といわれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数

ビジネス

現在の政策スタンスを支持、インフレリスクは残る=ボ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story