コラム

アフガニスタン暫定政権のキーパーソン──タリバンは何が変わったのか

2021年09月09日(木)18時05分
警備に当たるタリバン兵

カブールでの反パキスタンデモと周囲で警備に当たるタリバン兵(2021年9月7日) REUTERS/Stringer


・7日に発足した暫定政権は国内融和よりタリバン内部の派閥間の論功行賞の意味合いが強い。

・派閥のなかには実利性重視の穏健派から、これに対立する急進派まであり、そこには3人のキーパーソンがいる。

・暫定政権は一枚岩ではなく、3人の力関係がこれを突き動かす原動力になる。

いよいよ発足したタリバン暫定政権は、「国内融和」より「派閥間の論功行賞」の意味合いが強い。とりわけキーパーソンの処遇をみていくと、今後の暫定政権の難しさが浮き彫りになってくる。

論功行賞のための暫定政権

8月15日にアフガニスタンの首都カブールを制圧したタリバンが9月7日、暫定政権の閣僚名簿を発表した。それに先立って、タリバンは「国民を癒す政府(caretaker government)」の発足を強調していた。

しかし、フタを開けてみれば案の定というべきか、33人の閣僚のほとんどがタリバンメンバーだった。タリバンの大半を占めるパシュトゥーン人以外の民族出身者はほとんど入閣しておらず、女性閣僚もいない。

アフガニスタンにあるアメリカン大学のオバイドゥラ・バヒール教授は「大半の時間はどうやって多くの勢力を組み込んだ包括的な政府を作るかではなく、どのようにタリバンのなかでパイを分け合うかについての話し合いで費やされた」と批判する。

もっとも、世界中どの国をみても、軍事力で権力を奪取した者が、敗北した側やそれに連なる者を率先して新体制に迎えた歴史はほぼない(最後の将軍、徳川慶喜が明治新政府のもとで公爵に列せられたように、敗れた側に名目的な役職が与えられることはしばしばあるが)。その意味では、今回の暫定政権の陣容は不思議ではない。

主要閣僚の顔ぶれ

それでは、暫定政権の閣僚にはどんな人物がいるのか。以下では、4人のキーパーソンに絞ってみていこう。

【首相】ムハンマド・ハサン・アフンド

まず、首相就任が発表されたムハンマド・ハサン・アフンドは、タリバンでも古参メンバーの一人で、今年71歳になる。旧タリバン政権では外務大臣も務めた。

アフンドが首相になった大きな理由は、タリバンの現在の最高指導者ハイバトゥラー・アフンザダとの緊密な関係だ。

宗教学者のアフンザダは、前指導者ムハンマド・マンスールが2016年に米軍の空爆で死亡した後、タリバン第3代の最高指導者になった。この際、アフンザダが最高指導者になることを強く推したのがアフンドだったといわれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story