アフガニスタン暫定政権のキーパーソン──タリバンは何が変わったのか
こうした経緯からみれば、アフンドが首相に就任するのは「収まりがよかった」かもしれない。ただし、タリバンは内部の派閥分裂が激しく、いかに古参幹部でもアフンド首相がトップダウンで物事を進めるとは考えにくい。
もともとタリバンは一枚岩ではなく、タリバンはアフガニスタン人口の約40%を占めるパシュトゥーン人によって構成されているが、パシュトゥーン人の中もドゥラニ族、ホタキ族、カルラニ族などの部族連合によって分かれている。また、歴代の最高指導者のうち、誰を支持するかによっても立場が分かれている。
こうした派閥をそれぞれ率い、タリバン内部ですでに大きな影響力をもっているのが以下の3人で、実際にはこの3人のその時々の力関係がアフンド首相を動かすことになるとみられる。
【副首相】アブドゥル・ガニ・バラダル
タリバン設立当時からのメンバーで、初代指導者オマルとも近く、オマルが潜伏中には副代表として代行することも多かった。いわばタリバンの影の指導者ともいえる。
アメリカから制裁対象となり、2010年にパキスタンで拘束された。しかし、2018年に釈放されると、カタールにあるタリバン事務所の代表に就任し、事実上タリバンの外交責任者となった。
アメリカとの徹底抗戦を叫ぶ声を抑え、和平合意を進めたのもバラダルである。その意味で、実利的な思考パターンが強い。
タリバンがカブールに向けて大攻勢をかけていた8月末、バラダルは中国政府の招きに応じて北京を訪問し、外交関係の構築に着手したが、「中国国内のムスリム弾圧について口を出さない」という姿勢は、良くも悪くもその現実路線を象徴する。
【内務相】シラージュディン・ハッカーニ
バラダルといわば対極にあるのが、内務大臣に就任するハッカーニだ。
ハッカーニはタリバン内部にあった軍務委員会や財務委員会を束ねてきた、いわば番頭格だ。正確な年齢は不明だが、54歳のバラダルより10歳ほど若いとみられている。
首相のアフンドや副首相のバラダルがパシュトゥーン人の中でも主流派とみなされるドゥラニ族出身なのに対して、ハッカーニはカルラニ族で、主流派への反感が強いとみられる。
実際、ハッカーニはハッカーニ・グループと呼ばれる、タリバンの中でも最も強硬な路線の一団を率いていて、バラダルら主流派が進めたアメリカとの和平合意にも反対してきた。独自のテロ活動も数多く行なってきたため、やはりアメリカから制裁の対象になっており、FBI も追っている。
国際的な承認を得ることを優先させたいバラダルと、イスラーム主義的な主張を強調するハッカーニの綱引きは、今後のタリバン暫定政権の行方を大きく左右するとみられる。
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