コラム

イラン攻撃を命令しながら直前に撤回したトランプ――気まぐれか、計算か?

2019年06月24日(月)12時30分

もしロイターの報道が正しければ、トランプ氏はポンペオ氏やボルトン氏ら政権内タカ派をいわばダシにして、「彼らを抑えられるのは自分だけ」と匂わせることで、イランに譲歩を迫ったものと理解できる。言い換えると、取り調べ室における強面の刑事と物分かりのいい刑事のうち、トランプ氏は物分かりのいい刑事を演じたとみられる。

その場合、イランに突っぱねられたことで、トランプ氏は攻撃を引っ込めざるを得なくなり、作戦は失敗したといえる。

あるいは一人相撲か

ところが、「物分かりのいい刑事作戦の失敗」説には一つ問題がある。ロイター通信の報道に関してイラン最高国家安全保障評議会のスポークスマンが21日、「アメリカからは何もメッセージは受け取っていない」と全否定したことだ。

イラン政府の言い分が正しければ、トランプ氏は事前予告もなしに、しかも一旦受け入れたはずの政権幹部の意見を反故にして、決定を翻したことになる。そうなるとまさにトランプ氏以外は誰も理由を知らないことになる。その理由を推し量るとすれば、それまで度外視してきた攻撃のリスクを直前になって考慮し始めたということかもしれない。

しかし、そうだとすると、これは「作戦失敗」の場合より、ある意味でタチが悪い。それは戦略的な目標も、緊張が高まることによる影響も、もともとあまり深く考えていなかったことを意味するからだ。それはいわば、トランプ氏の一人相撲とも呼べる

「作戦失敗」と「一人相撲」のいずれが真実に近いかは定かでない。しかし、いずれの場合も、イランとの神経戦においてアメリカが優位に立っていない点では共通する。

ただし、その一方で、これからもトランプ氏の動向がカギを握ることもまた確かだ。そのため、アメリカが胸を張って引き上げられる口実を見つけられるまで、同様の事態は繰り返されるとみられるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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