コラム

イラン攻撃を命令しながら直前に撤回したトランプ――気まぐれか、計算か?

2019年06月24日(月)12時30分

そのうえ、本格的な衝突の口火になりかねないだけに、報復攻撃で想定されるダメージといった基本的なことをあらかじめ確認しなかったとは考えにくい。

今回の攻撃命令は、ポンペオ氏やボルトン氏などトランプ氏以上のタカ派の勢いが政権内で増していることをうかがわせるが、主要閣僚の意見をトランプ氏が一旦受け入れたとするなら、なぜ命令を撤回したのかがなおさら疑問となる。

議会への配慮?

こうした疑問に関する有力な見方としては、議会への配慮がある。

アメリカ合衆国憲法では、大統領による開戦の宣言には議会の承認が必要になる。歴史上、その例外は、2001年同時多発テロ事件直後の軍事行動など、「国家に差し迫った脅威」があった時だけだ。一方、イランの場合、その装備からして、アメリカ本土が攻撃される可能性は極めて低い(最近ポンペオ国務長官らが「イランがアルカイダとつながっている」という真偽の疑わしい言説を振りまいていることは、この文脈から理解できる)。

つまり、少なくとも現段階では、共和党が過半数を占める上院はともかく、民主党が過半数を占める下院の支持を得ることが難しい。だとすれば、議会関係者との会合の後、トランプ氏が命令を撤回したことは不思議ではない。

「物分かりのいい刑事役」か

しかし、この説明でもまだ疑問は残る。攻撃でイランに与えるダメージと同じく、下院の支持を取りつけるのが難しいことも、事前に予測がついただろうということだ。

これらの疑問を積み重ねていくと、トランプ氏は最初から撤回するつもりで攻撃命令を出したという説も成り立つ。

この観点から重要なことは、攻撃命令を出した後、トランプ氏がイラン政府に攻撃を予告していたと報じられたことだ。

ロイター通信は21日、イラン政府関係者の証言として、トランプ氏がオマーン政府を通じてイランに「攻撃が差し迫っている」、「自分としては攻撃に反対である」と伝えたうえで、攻撃を止めるために協議に応じるよう呼びかけたと報じた。

ロイターによると、このメッセージに対してイラン政府関係者は、これまで一方的に圧力を加えてきたアメリカ政府との協議に否定的な態度をみせたという。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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