アメリカの銃をめぐるパラノイア的展開
オレゴン州の片田舎で武装市民が立てこもった
実は今年の1月2日から41日間、オレゴン州の片田舎にある生物保護区に「ミリシア」な人たちが全米から集まり、連邦政府の建物に侵入し占拠を続けた。「連邦政府の権限拡大に反対し、銃規制に反対する」という大義名分だった。どちらかというとならず者集団で、記者会見を開くところまではまとまっていた。
が、日を追って奇妙な言動が目立つようになっていった。
「食料と衣類、生活雑貨、それに大人のおもちゃを差し入れてくれ」
というメッセージを支持者に向けてツィートしたためネットのおもちゃとなってしまい、箱いっぱいに男性器の形をしたキャンディーが送りつけられる場面もあった。
道化の集まりのような集団ではあったが、ある時点でFBIとの衝突が険悪になり、メンバー1名が死亡。最後まで武装して立てこもった4人はFBIに包囲され、電話越しに一昼夜説得を受けた。その立てこもりの現場から音声ストリームの実況もなされた。最後まで抵抗を続けたメンバーは当初、
「合衆国憲法を守るためなら、今ここで自決する!」
と叫んでいた。その様子を何万人もが同時に聞いていた。いわば「浅間山荘」の実況中継版であり、もしかすると生放送中に撃ち合いが起きたり、メンバーが自分の頭を撃ち抜く可能性もあった。
そのメンバーはしかし、徐々に精神が「メルトダウン」していった。ネットで学習したさまざまな陰謀説や歴史の解釈、聖書の解釈を一通り語り終わると、どういうわけか、
「これからクッキーを食べて、タバコを一本吸う」
と穏やかな口調で語り始め、包囲するFBI捜査官たちが、
「ハレルヤ」
と叫んでくれれば投降すると発言。捜査官たちは要求通り口々に、
「ハレルヤ」
と声を上げ、メンバーは武器を捨てて投降した。
異様な側面に彩られた事件だったが、仮にFBIが強行突入を試みた場合、制圧が失敗して立てこもりメンバーが全員自決していた可能性もある。そうなっていたなら、すぐにまた他のどこかでミリシアやミリシアのシンパが、「連邦政府の暴政」に抗議する形で立てこもった可能性が強い。
実際に1990年代には武装したカルト集団が銃撃戦の後に火を放って集団自決をした事例もある。FBIは神経戦の末に「たった一人の死亡者」で事件が解決し、胸をなでおろしていることだろう。