コラム

アメリカの銃をめぐるパラノイア的展開

2016年02月23日(火)11時00分

オレゴン州の片田舎で武装市民が立てこもった

 実は今年の1月2日から41日間、オレゴン州の片田舎にある生物保護区に「ミリシア」な人たちが全米から集まり、連邦政府の建物に侵入し占拠を続けた。「連邦政府の権限拡大に反対し、銃規制に反対する」という大義名分だった。どちらかというとならず者集団で、記者会見を開くところまではまとまっていた。

 が、日を追って奇妙な言動が目立つようになっていった。
 「食料と衣類、生活雑貨、それに大人のおもちゃを差し入れてくれ」
 というメッセージを支持者に向けてツィートしたためネットのおもちゃとなってしまい、箱いっぱいに男性器の形をしたキャンディーが送りつけられる場面もあった。

 道化の集まりのような集団ではあったが、ある時点でFBIとの衝突が険悪になり、メンバー1名が死亡。最後まで武装して立てこもった4人はFBIに包囲され、電話越しに一昼夜説得を受けた。その立てこもりの現場から音声ストリームの実況もなされた。最後まで抵抗を続けたメンバーは当初、
 「合衆国憲法を守るためなら、今ここで自決する!」
 と叫んでいた。その様子を何万人もが同時に聞いていた。いわば「浅間山荘」の実況中継版であり、もしかすると生放送中に撃ち合いが起きたり、メンバーが自分の頭を撃ち抜く可能性もあった。

RTX21BWI.jpg

今年の1月2日から41日間、オレゴン州南東部のマラー野生動物保護公園内にある連邦政府の建物を武装市民が占拠した。 Jim Urquhart-REUTERS

 そのメンバーはしかし、徐々に精神が「メルトダウン」していった。ネットで学習したさまざまな陰謀説や歴史の解釈、聖書の解釈を一通り語り終わると、どういうわけか、
 「これからクッキーを食べて、タバコを一本吸う」
 と穏やかな口調で語り始め、包囲するFBI捜査官たちが、
 「ハレルヤ」
 と叫んでくれれば投降すると発言。捜査官たちは要求通り口々に、
 「ハレルヤ」
 と声を上げ、メンバーは武器を捨てて投降した。

 異様な側面に彩られた事件だったが、仮にFBIが強行突入を試みた場合、制圧が失敗して立てこもりメンバーが全員自決していた可能性もある。そうなっていたなら、すぐにまた他のどこかでミリシアやミリシアのシンパが、「連邦政府の暴政」に抗議する形で立てこもった可能性が強い。

 実際に1990年代には武装したカルト集団が銃撃戦の後に火を放って集団自決をした事例もある。FBIは神経戦の末に「たった一人の死亡者」で事件が解決し、胸をなでおろしていることだろう。

プロフィール

モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。国際ジャーナリストからミュージシャンまで幅広く活躍。スカパー!「Newsザップ!」、NHK総合「所さん!大変ですよ」などに出演中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story