コラム

カタルーニャ騒然、前州首相プッチダモン身柄拘束の意味

2018年03月28日(水)18時40分

スペイン政府が強制的に行った昨年12月のカタルーニャ議会選挙では、「亡命」中や獄中の政治家も出馬した。歴史的に高い投票率の中で、彼ら全員が当選し、再び独立派がカタルーニャ議会の過半数を占めた。ところが、再選を果たしても、カタルーニャでの政治活動が許されることはなく、テロリストなどに適用される「国家反逆罪」容疑者とされている。最高禁固30年の重罪だ。

カタルーニャでは彼らを「政治犯」と呼ぶ一方で、スペイン政府は「スペインには政治犯は存在しない」と主張し、締め付けは厳しくなるばかりで、アート分野における表現の自由までも侵害している。

mori180328-04.jpg

州警察と対峙する群衆 Photograph by Toru Morimoto

最近の目立った例としては、首都マドリード生まれの著名な芸術家サンティアゴ・シエラによる、カタルーニャの「政治犯」たちの肖像写真を題材として使った作品「スペインの現代政治犯」が、2月にマドリードで行われたARCO国際アートフェスティバルで展示される予定だったが、スペイン当局の検閲によって禁止された。

そんな中、「亡命」中のプッチダモンの身柄が拘束された。バルセロナでは「政治犯釈放」デモが激しさを増し、カタルーニャ全土が揺らいでいる。

mori180328-05.jpg

独立派ジョルディ・サンチェスの写真を掲げるデモ参加者。裁判が開かれないないまま5カ月以上投獄されている Photograph by Toru Morimoto

通常、テロ行為のような暴力なくして「国家反逆罪」とはされないが、ドイツが、非暴力の反政府イデオロギーを理由に、その容疑者としてプッチダモンをスペインへと引き渡すことになれば、民主主義に基づく選挙で選出された議員たちを、中央政府とは反対の立場であることを理由に、容赦なく投獄しているスペインの方針を認めることになる。

プッチダモンの身柄がスペインへ引き渡された時、今回のカタルーニャの独立運動は終焉を迎えるかも知れない。しかし、本当の終焉は、ヨーロッパが掲げる自由な思想に基づく民主主義なのかも知れない。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story