コラム

シュルツSPD首相候補の登場はドイツを変えるか?

2017年02月27日(月)18時30分

最大のポイントは、シュレーダー改革をどの程度修正するのか、失業保障の期間や金額の問題にとどまるのか、任期付き有期雇用契約の制限など、労働市場の柔軟化にどこまで制限を加えていくのかなどであり、今後の議論を注目していかなければならない。ドイツ経済の活力を削ぐほどに極端にやりすぎれば、政権をとれるほどにSPDの支持は広がらないであろうし、不満や不安を持つ弱者の視点を十分とりいれられなくてもシュルツ人気は失速するであろう。

連邦議会選挙でどのような結果が出ても、次の政権も何らかの連立とならざるを得ない。緑の党も現状では振るわないので、現在の情勢ではシュルツが首相となるためにはSDPと緑の党と左派党が3党連立を組むか、SPDが選挙で第一党となってCDUと大連立を組むか、であろうがどちらもハードルはかなり高い。左派党の外交・安全保障政策はこれまでの戦後ドイツの政策と大きく異なり、州レベルでは実績があるとしても連邦レベルで連立を組むのは相当厳しい。

シュルツ登場のこれまでの最大の貢献は、個人的な魅力を力として既存二大政党間の政策論争にドイツ政治の議論を引き戻すことに成功していることである。

メルケル首相は既に12年も首相の座にあり、次の選挙で勝利すればアデナウアー首相の14年、コール首相の16年とも並ぶ。長期政権特有の停滞感は見られるものの、EUの中でも外でも危機的な展開があり、メルケル首相の安定感への評価も高い。選挙戦を通して政策論争が深まっていってもシュルツ率いるSPDへの期待感が失われないか、注目される。 

プロフィール

森井裕一

東京大学大学院総合文化研究科教授。群馬県生まれ。琉球大学講師、筑波大学講師などを経て2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年准教授。2015年から教授。専門はドイツ政治、EUの政治、国際政治学。主著に、『現代ドイツの外交と政治』(信山社、2008年)、『ドイツの歴史を知るための50章』(編著、明石書店、2016年)『ヨーロッパの政治経済・入門』(編著、有斐閣、2012年)『地域統合とグローバル秩序-ヨーロッパと日本・アジア』(編著、信山社、2010年)など。

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