イギリス離脱交渉の開始とEUの結束
ユンカー欧州委員会委員長(右)はメイ英首相と会談し、イギリスの離脱交渉の姿勢に不信感を持ったとされる Hannah McKay-REUTERS
<4月29日、欧州理事会は、英国のEU離脱交渉の基本原則をまとめた。EUの姿勢は極めて硬く、イギリスへの不信感も募っている。交渉の行方には悲観的にならざるを得ない>
イギリス離脱交渉原則の決定
2017年4月29日の欧州理事会(EU首脳会議)はEU条約第50条の加盟国離脱規定に基づいてイギリスの離脱を議論し、交渉の基本原則をまとめた。第50条2項は、離脱を希望する国が離脱の通知を行ってから2年間の交渉期限を定めている。イギリスはちょうど1ヶ月前の3月29日にこの正式な通知を欧州理事会常任議長に対して行ったので、タイムリミットは2019年3月29日ということになる。
もちろんこの期限より前に離脱協定がまとまり、より早い日程でイギリスがEUを離脱することも理論的には可能であるが、膨大な交渉の対象とこれまでの政治的な対立を見ると、それは現実的ではない。むしろ、離脱交渉が2年の期限内にまとまらないリスクも大きい。第50条2項が定めるように、交渉が通告から2年以内にまとまらない場合、欧州理事会が全会一致で決定すれば、離脱交渉を延長することは可能である。もし、それが出来ない場合には、いきなりイギリスがEUから切り離されることとなる。
2016年6月23日のEU離脱をめぐる国民投票でイギリスが離脱を決定した直後には、イギリスとEUの関係は、ノルウェーとEUの関係のような欧州経済領域型の協定を結んで現状の域内市場内の関係を損なわない安定したものになるのではないかという観測もあった。
しかし、イギリスはEUからの移民を認めないことに頑なである。EUの域内市場にとってきわめて重要なヒトの自由移動という原則に例外を求めるイギリス側の発言が続いたこともあって、希望的観測は急速にしぼんでいった。その後、EUとイギリスとの関係は「ハードBrexit(イギリス強硬離脱)」と言われるように、EUの存在の中核とも言える域内市場から切り離される可能性が高いと見られるようになってきた。
2017年3月25日、イギリスを除くEUの首脳たちはローマに集い、欧州経済共同体(EEC)条約(ローマ条約)の調印60周年を祝った。このEEC条約の核となるのが構成国間の共同市場の創設である。共同市場は1980年代からは域内市場と言われることが多いが、その意味するところは経済活動に関わるモノ、ヒト、カネ、サービスが国境を越えて制限無く自由に動き回れる経済圏のことである。欧州理事会で発表された宣言文書にもあるように、これら4つの自由は不可分であり、そのうちの一つであるヒトの自由移動だけに制限をかけ、「つまみ食い」的にモノ、カネ、サービスの3つの自由だけを求めることは、EU側から見ればとうてい認められないし、EU司法裁判所のようなEU機関が市場統合の問題に関与することも当然のことなのである。
そうは言っても、イギリスには約300万人ものEU構成国の市民が居住し、多くの企業が経済活動を行っている。4月29日のEU首脳会議文書は、市民、企業、利害関係者等に確実性と法的な安定性を与え、イギリス離脱による影響を抑えること、そしてイギリスのEU離脱条件を明確に規定することをまず求めている。そして離脱条件が明確に規定された後にはじめて、離脱移行期間と離脱後のEUとイギリスの新しい関係を規定する協定を交渉することを理事会文書は求めている。
このような背景から、EU首脳会議は公式の文書で離脱交渉にあたるガイドラインを定め、自ら離れていくのはイギリスであり、EUはその悪影響についてはイギリスが負うべきであり、離脱にかかわる財政負担もきっちりと負ってもらうという姿勢を明確にした。
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