ナチスへの復讐劇『手紙は憶えている』とイスラエルをめぐるジレンマ
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ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<ユダヤ人迫害への後ろめたさから戦後の西洋世界はイスラエルの加害を強く批判できない。そのジレンマを反転させながらクリアした映画が『手紙は憶えている』だ>
アメリカの介護施設で暮らすゼブ・グットマンは、アウシュビッツ収容所のサバイバーだ。最近は認知症が進行し、妻だったルースが死んだことさえ起床のたびに忘れている。
この介護施設には、ゼブと同じくアウシュビッツにいたマックスも暮らしている。2人の共通項は腕に刻印された囚人番号と、アウシュビッツで自分以外の家族を全て殺されたこと。ゼブは、今は車椅子でしか動けないマックスから自分たちの家族を殺したナチス元親衛隊員の名前と住所が記された手紙を託される。
戦後に元親衛隊員はアメリカに逃亡し、偽名を名乗って血塗られた過去を封印した。同姓同名でほぼ同じ年齢の男は4人。そのうちの1人が元親衛隊員だ。こうしてゼブの復讐の旅が始まる。
ナチスやホロコースト(ユダヤ人虐殺)をバックグラウンドにする映画は、1つのジャンルと規定できるほどに数多く作られてきたが、特にここ数年は明らかに増えている。
その要因の1つは右傾化だ。集団化が加速して異端や少数派への差別や排斥感情が高揚し、移民排斥をスローガンにする右寄りの政党への支持が急増している。だからこそホロコーストの記憶を喚起しなければいけない。欧米の多くの映画人はそう考えたのだろう。