コラム

自閉症の妹を売って生きる... 文句なしの問題作『岬の兄妹』が見せる今の邦画に足りないもの

2022年11月17日(木)18時35分

2019年に公開されたこの映画については、「問題作」「衝撃作」などの修辞が常に付いて回る。ある意味で手あかの付いたフレーズだけど、この作品については全く違和感がない。確かに衝撃的な問題作だ。

兄と妹は底辺まで落ちる。極貧とか底辺とかのレベルではない。底が抜けて一線を越える。越えながら落ちる。何度も落ちる。落ちながらもがく。2人の俳優が素晴らしい。抑制した演出も見事だ。そして秀逸なラスト。振り返る妹の表情。貧しい港町。夕暮れの曇り空。

......今回は前置きが長すぎた。でもこの映画にはこれでいい。ぐだぐだ書く必要はない。観られることに特化した映画だ。今の邦画に足りないものを見せる。『福田村事件(仮)』はそれを目指しているが、違う角度からそれを見せつけられた。

magmori221117_2.jpg『岬の兄妹』(2018年)
©SHINZO KATAYAMA.
監督/片山慎三
出演/松浦祐也、和田光沙、北山雅康、岩谷健司

<本誌2022年11月8日号掲載>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、米株安や円高を嫌気 一時3万

ビジネス

法人企業統計、10─12月期設備投資は-0.2% 

ビジネス

米AI企業コアウィーブがナスダックIPO申請、時価

ワールド

ロシアとノルドストリーム2再開協議していない=独経
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    生地越しにバストトップがあらわ、股間に銃...マドン…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story