『絞死刑』は大島渚だから撮れた死刑ブラックコメディー
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<実際に起きた小松川高校事件を題材にしているが、全体のトーンはスラップスティックなブラックコメディー。映画を通して国家権力と闘い続けた大島渚でなければ、こんな作品は撮れない>
教えている大学のゼミは、フィールドワークを中心的なコンセプトにしている。つまり座学ではなく外に出ること。テーマを設定したら、いろんな場所に足を運び、いろんな人に会って話を聞く。
学生には、自分たちの特権を十分に行使しろと伝えている。インタビューを申し込まれたとき、メディアなら断るけれど学生からの依頼だから特別に応じると答える人は少なくない。そもそも卒業して社会人になれば、多忙な日常が待っている。ふと気になったことを、ネット検索ではなく実際に足を運んで調べることなどまずできない。
テーマは基本的に学生たちが選ぶ。定番はメディア、差別、宗教、選挙の年は選挙制度、数年前までは原発関連も多かった。そして死刑制度。死刑制度をテーマにするときは、まずゼミ生たちに賛成か反対かを聞く。毎年7対3くらいの割合で賛成が多い。世論調査では8対2で死刑賛成だから、まあ順当な数字なのだろう。
そして班に分かれてフィールドワーク。冤罪をテーマにした班は弁護士や冤罪被害者に会いに行く。死刑反対のロジックをテーマにした班は、死刑廃止を訴える市民団体や弁護士にインタビューする。死刑存置をテーマにした班は、被害者遺族にインタビューする。全ての班に共通して与える課題は、実際の死刑囚への接触だ。東京拘置所には必ず行かせる。できれば死刑囚に面会する。その感想は毎年ほぼ同じ。「あまりに普通の人でびっくりしました」
死刑制度に賛成か反対かは二の次だ。まずはシステムとしての死刑制度を知ること。実際の死刑囚に会うこと。その上で一人一人が考えればいい。その思考や煩悶に、書籍や映画は重要な補助線を提供する。
そのおすすめの1つが『絞死刑』だ。製作は、松竹を大げんかの末に退社した大島渚が仲間と立ち上げた「創造社」。日本アート・シアター・ギルド(ATG)が独立プロダクションと製作費を折半する「一千万円映画」の第1弾でもある。スタッフ、キャストはほぼ大島組。実際に起きた小松川高校事件を題材にしているが、全体のトーンはスラップスティックなブラックコメディーだ。
強姦致死等の罪で死刑囚となった在日朝鮮人Rの刑が執行された。しかしなぜかRの脈は止まらず、さらに蘇生したRは記憶を失っている。このままでは処刑できない。刑務官や医務官、検事や教誨師たちは、Rが行った犯罪の一部始終や家族との日常を、寸劇で演じてRに見せる。Rが徐々に記憶を取り戻すとともに、民族差別の理由や官僚制度の矛盾、そして死刑制度の意味についての疑問符が観客たちにも突き付けられる。
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