コラム

「差別発言は冗談」論は反論になっていない

2021年03月05日(金)19時25分
ネット炎上

WOODEN MANNEQUIN, LEFT TO RIGHT: PROT TACHAPANIT/ISTOCK, STUDIOCASPER/ISTOCK

<森喜朗氏の女性差別発言、地震の際の「井戸に毒」SNS――そのたびに「冗談じゃないか」「ネタでしょ」といった反応が出てくるが、決して笑うべきでも、黙るべきでもない>

ここ最近、「冗談」のことが気になっている。

2月3日に森喜朗氏の女性差別発言があった後、ある新聞記者が複数のスポーツ関係者から、ただの「冗談じゃないか」と言われたという記事を読んだ。

森氏が日本オリンピック委員会の臨時評議員会で当該の発言をした際には、評議員らから笑い声が上がったとも報道されている。

2月13日深夜には福島県と宮城県で震度6強を記録する大きな地震が発生した。地震そのものの被害に加えて、SNSでは関東大震災後に朝鮮人虐殺へと結び付いた「井戸に毒を入れた」という差別的なデマをなぞった書き込みも相次いだ。

それらを批判する声も多かったが、同時に「ネタでしょ」などと批判を無効化して嗤(わら)うような投稿も見られた。

同じ流れがさまざまな事象を横断しながら反復している。差別する言葉→批判の声→冗談じゃないか(あるいは、ネタでしょ)。

ここで「冗談じゃないか」に期待される役割は、差別が与えた被害を矮小化し、その責任を取らずに済ませることだろう。攻撃があったにもかかわらず、「真に受けないでよ」となかったことにすることだ。

これらと似ているのが、森発言への批判に対する切り返しでも多く見られた、「切り取り方の問題」や「解釈の間違い」など、さまざまなパターンで表現される「受け手への責任転嫁」だ。

森氏自身も退任の挨拶で「解釈の仕方だと思うんですけれども」とこの論法を使っていた。

これらも非常にタチが悪く、言われた側は最初の差別に加えて、「真意を曲解している」という非難まで上乗せして浴びせられることになる。

言葉の差別性を否定し、自己弁護や他人の擁護のために、「言葉の表面」から「言葉の意図」へと論点をずらす手法はよく使われる。

言葉の表面と異なり、意図のほうは原理的に外から見えない。だからこそ、差別か否かの判断基準を後者にずらすことができれば、「差別の意図の有無」という水掛け論に持ち込めるという狙いが垣間見える。

だが確認すべきは、差別の攻撃性が言葉の意図にかかわらず、その表面だけで十分に発生するということだ。つまり、「冗談じゃないか」は本質的に何の弁解にもなっていない。冗談だったとしても、駄目なのである。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ

ワールド

イスラエルとヒズボラ、激しい応戦継続 米の停戦交渉

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story