コラム

国葬で噴出した「日本人」の同調圧力

2022年10月18日(火)12時20分
二階俊博

KIYOSHI OTA-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<二階元幹事長は「終わったら必ずよかったと思うはず。日本人ならね」と発言していた。国葬に際して「日本人」を語った人はほかにも多い。しかし、安倍元首相の死を政治的に利用する試みは失敗した>

安倍晋三元首相の国葬から少し時間がたち、報道各社が国葬後に実施した世論調査が出そろってきた。国葬後も否定的な評価が肯定のそれを大きく上回る状況はそのままで、岸田内閣の支持率も下がり続けている。

これは自民党の二階俊博元幹事長の事前予想が外れたことを意味する。

二階氏は国葬について、「黙って手を合わせて見送ってあげたらいい」「議論すべきじゃない」と語りつつ、「終わったら、反対していた人たちも必ずよかったと思うはず。日本人ならね」と続けた。国葬の10日ほど前、テレビ番組での発言だ。

国葬当日は多くのテレビ局が中継をし、菅義偉前首相の弔辞が話題になった。インドのモディ首相ら諸外国の要人も参列し、一般向けの献花台には長い列もできた。

だが、それらが人々の見方を大きく変えることはなかった。「日本人なら」コロッと意見を変えるに違いない。そんな望みはかなわなかったのだ。

国葬に際して「日本人」を語ったのは二階氏だけではない。

立憲民主党の玄葉光一郎氏は「日本人の一般的な死生観などに鑑み、粛々と出席して追悼する」と述べた。「日本人の一般的な死生観」が何を意味し、それが国葬の出欠と論理的にどう関わるかは不明だが、「日本人なら」という言葉で二階氏が人々に期待したのは、おそらくこうした趣旨不明瞭で何となくの賛成だったのだろう。

あるいは、自民党の麻生太郎副総裁。献花に並ぶ人々を見た感想として、「若い人たちの中に多くの日本人が育ちつつある」と語ったと報じられた。ここでは二階氏流の「日本人なら国葬に賛成する」という論理が転倒し、「国葬に参列した人は日本人だ」にまで一気にスライドしている。

そのすぐ隣に「国葬に反対する人は日本人ではない」があるのは自明だが、実際にそうした乱暴な趣旨の発言がいくつもなされている。

長崎県平戸市の黒田成彦市長は、一般献花者の列に触れ、「テレビよ、反日勢力よ。この静かな反撃を直視せよ!」とツイートした。

三重県の小林貴虎県議も、「国葬反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだったという分析が出ているという」と差別的かつデマでもある内容のツイートをし、のちに撤回した。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story