コラム

就活ルールの議論では、企業も大学も学生のことを考えていない

2018年10月30日(火)14時50分

企業側も誰に高い処遇や教育投資をすべきか個別の判断が求められる。個人の視点に立てば、一律には高い給与も教育もあてにできないということ。企業や事業のM&AやITの進展で企業の新陳代謝が進めば、個人のキャリアは自らがきちんと設計し、生き抜いていかなければならない。人生に、誰も責任はもってくれない時代なのだ。

新ルールは、1年生から始めることを推奨すべき

大切なのは、学生時代にきちんとしたキャリア意識を芽生えさせること。それには、世の中の仕組みやそれを支える仕事についての幅広い知識をできるだけ早くから学んだ方がよい。また、自分の個性や特徴を知り、今後の自分のために身につけるべき知識や経験に気づく機会も早い方がよい。

冒頭に、本来のインターンシップを進めるべきだと書いたが、政府が平成22年度に創設した「キャリア教育アワード」をご存知だろうか。企業が社会貢献活動の一環として、小中学生、高校生、大学生などに教育を行っている活動を表彰している。

昨年は、阪急阪神ホールディングスグループが経済産業大臣賞(大賞)を受賞。社員が小学校に出向き出張授業「ゆめ・まち わくわくWORKプログラム」を実施したのだ。もちろん大学生向けのプログラムを行った企業もある。地元の学校に出向いた中小企業の取り組みもある。素晴らしい事例が紹介されている。

この発想で企業がインターンシップに取り組んでこそ、価値の高い就業体験ができる。就業体験までいかなくても、企業のビジネスモデルや仕事の実態を解説してあげるだけでも大きな価値がある。

企業はインターンシップを使って採用のために囲い込むという発想を捨て、採用の有無にかかわらず学生に社会を理解させる役割を担うと腹を括るべきだ。

就職協定にあったインターンシップを就職活動に直結させてはいけないという取り決めも不思議なルールに思える。企業も個人も知ってもらう努力をし、それゆえに好きになることを誰が止められるだろうか。企業活動を知ってもらう努力をすれば、おのずとファンは増え、必ず採用活動の助けになる。

新しい就活ルールは、「探索」の機会を狭めるようなルールにしてはいけない。どうしても必要であれば、内定式の時期だけ決めればよい。それ以外の活動は、自由にさせるべきだ。逆に1年生から企業見学や社会人の話を聞くことを勧めてはどうか。

当たり前だが、1年生から内定を出しても、更に興味をひかれる企業があれば、内定辞退し別の会社へ行ってしまう。たとえ囲い込みに成功して入社したとしても、イメージと違えばすぐに辞めてしまう。

企業側に必要なのは、本当のことを伝え、個人と企業の未来を共有する努力。辞退を見込んで2倍近くの内定を出すことに努力するよりも、本当に理解し合える人を見つけることに力を注いだ方が、入社後を含めた長期的視点に立てば、結局は効率的だ。

今後議論される2022年春入社以降の就活ルールには、キャリア発達の視点が盛り込まれることを願ってやまない。

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プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

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