コラム

就活ルールの議論では、企業も大学も学生のことを考えていない

2018年10月30日(火)14時50分

recep-bg-iStock.

<早いか遅いかではなく、大切なのはキャリア観を醸成すること。大学生はむしろ、1年生から「活動」をすべきだ>

就職活動のルールが話題になっている。就職協定があっても、ルール破りが横行し形骸化が指摘されてきた。

日本経済団体連合会(経団連)に加盟しない外資やベンチャー、中小企業などが協定を無視して早期に接触し内定を出す。大学は、就活の早期化が学問や留学に悪影響を及ぼすことを懸念。

そんな中、9月に経団連の中西宏明会長が、就職・採用活動のルールに関する音頭を取らない旨の発言をしたことから一気に世間が騒がしくなった。

そして、10月29日に、政府主導で2021年春入社の就活ルールが決定された。それは現状の、大学3年生の3月に説明会、4年生の6月に面接解禁を変えないというものだ。

キャリア支援の実践者である筆者としては黙ってはいられない。一番大事な、学生のキャリア形成という視点が抜け落ちているように感じられるからだ。

就活ルールには、人生100年という視点が必要

結論を言おう。大学生はむしろ、1年生から「活動」をすべきなのだ。あえて活動と書いたのは、「就職活動」ではなく、「社会を知り、自分自身を知り、将来を考える活動」をすべきだということだ。社会を知るうえで、企業活動の内容を知ることはとても参考になる。企業を知ることを、イコール就職活動と考えることをやめるべきなのだ。

「人生100年時代」という言葉が当たり前になり、70歳まで働く時代がすぐそこまで来ている。政府は未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、その環境を整えるための議論に着手した。

現在の学生にとって就職活動の期間は、70歳まで働くための基礎となるキャリア観や、自分の強みは何で、どうやって換金価値を一生高め続けるのか、それらを考えるための貴重な時間のはずだ。今までの就活ルールのように短期間で決めることに無理がある。

なぜ短期間しか考えないのか。その答えは、学生と話してみるとわかる。不思議なことに多くの学生が、必ずしも就職活動を前向きに捉えていないのだ。

就活にネガティブなイメージを持っており、就活はどちらかというと嫌なことで、やらなくていいのであれば、ぎりぎりまで先延ばしにしたい。そして、これ以上遅らせるとまずいかもしれないというタイミングで動き出す。それが、人によっては、3年生夏のインターンシップ応募であり、3月の説明会参加なのだ。

確かに、普段と違う世界の人とコミュニケーションをとることは、慣れるまでは緊張を強いられる。また、選考されるという意識を持ち、圧迫面接などの言葉を耳にすると、できれば避けたくなる気持ちも理解はできる。

しかし、そんな思いでいざ就活を始めてみると、途中で楽しくなったという学生もいる。知らなかった社会の仕組みや、アルバイトとは違う仕事の醍醐味を生の声として聞いた時、視界が開け、世の中への興味が急速に広がるのだ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story