コラム

経済産業省のお節介がキャッシュレス化の足を引っ張る

2018年09月12日(水)20時00分

日本ではOrigamiとLINE Payが先行していたが、今年になってから大手企業が雪崩を打ったようにQRコード決済への参入を表明した。ドコモの「d払い」、楽天の「楽天ペイアプリ」、アマゾンの「Amazon Pay」のサービスが始まったほか、ソフトバンクとYahoo!JAPANによるPayPay、さらには三大メガバンクとゆうちょ銀行もQRコードを利用した決済サービスを近々導入する予定である。高コストという技術的理由で電子マネーの普及が進まないという状況は、QRコード決済の普及によって克服されようとしている。

日本で電子マネーの普及が進まなかったもう一つの理由は、それが顧客を囲い込むための「ポイントカード」として利用されることが多かったことである。システムを導入する企業にとっては、お客の囲い込みが目的だから、電子マネーは自らの系列店で使えればそれでよく、系列外の店にわざわざ広める動機がない。

各コンビニチェーンがそれぞれ自らの系列店で使える電子マネーを導入していった結果、日本ではキャッシュレス化が進んでない割には電子マネーのブランド数がやたらに多い。コンビニのレジの横には目を凝らさなければよく見えないぐらい、電子マネーやらクレジットカードやらのロゴがいっぱい並んでいる。だが、コンビニ客の大半はそれらのロゴに目をやることもなく、現金で代金を支払っていく。

政府が音頭を取る規格統一は普及の妨げ?

経済産業省は、このままではQRコード決済でも従来の電子マネーと同様にブランドが乱立して足の引っ張り合いになると思ったらしく、前述の「キャッシュレス推進協議会」を通じてQRコード決済の規格を統一することにした(『日本経済新聞』2018年6月7日)。記事によれば、代金を受け取るお店には「Japan連合」という共通のロゴとQRコードを一つだけ備え、代金を支払う側がめいめいのアプリでそれを読み込めば、統一規格に参加したどの決済事業者のシステムでも代金が支払えるようにするという構想らしい。

さて、ここからが今回の本題なのだが、この「QRコード決済の規格統一」という経済産業省の方針は、QRコード決済の普及を促進するどころか、むしろ阻害するのではないかと私は思っている。

まず、私たちがなぜ現金を持ち歩くのかを考えてほしい。それは現金しか受け付けない業者がいまだに多いからである。私が普段利用している駅の前から、小売店や飲食店で電子マネーに対応していない店がどれぐらいあるかを数えてみたら31店のうち24店(77%)を占めた。(但し、うち数店ではクレジットカードには対応しているので、キャッシュレス支払いは一応可能である。)要するに大手のコンビニやドラッグストアや本屋のチェーンに属さないお店ではたいがい電子マネーが使えないのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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